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第61話 名もなき村1

「うわー! キレイな道だね!」


 メーリングの町を出ると、形の整えられた長方形の石で敷き詰められた、石畳(いしだたみ)の道が東へと伸びていた。


「この道は、首都リュクサンブールまで続いておるのじゃろうか?」

「どうだろうな? 首都側の東部の情勢(じょうせい)が不安定だという事ならば、途中で終わっているのではないか?」


 ジャクリーヌの読みは当たっており、この道はリュクス神聖国の中央にそびえる、デラクア山脈の(ふもと)である、東西の境界線まで伸びていた。この道は月に一度、メーリングの町から首都リュクサンブールへの物資(ぶっし)を運ぶために、ボゼッティ家によって作られたもので、境界線の位置で物資(ぶっし)の受け渡しが行われていたのだった。


「正面の岩山。まるで天然の城壁(じょうへき)のようでございますね」


 進んでいる道の先には、左右に長く伸びる岩山があり、まるでメーリングの町を守っているかのようであった。


「これでリアが言ってた説の真実味が、かなり増してきたわね」

「じゃが、不思議(ふしぎ)ではないか? 守りばかりで攻め手が1つもないというのは」

「たしかにそうだな。(いくさ)に備えるならば、攻める手立ても必要だしな!」


 いろいろと考えながら、岩山の短いトンネルを抜けると、右側に大きな城のようなものが現れた。


「なんじゃあれは!? かなり大きな建物のようじゃぞ!」

「ニコラちゃん師匠。探求(たんきゅう)羅針盤(らしんばん)を確認していただけますか?」

「うん! わかった!」


 馬車の手綱(たづな)を握るリアは、一旦馬車を停めた。そして、勇者が(ふところ)から取り出した探求(たんきゅう)羅針盤(らしんばん)を確認する。


「あっ! あの建物の方を指してるよ!」

「針もかなり震えているみたいね!」

「つまり、3つ目の魔石は、あそこにあるというわけだな!」


 石畳(いしだたみ)の道から脇道(わきみち)にそれ、探求(たんきゅう)羅針盤(らしんばん)が指し示す場所へと馬車で向かっていく。


「それにしても、なんでメーリングの町の人たちは、この建物の話をしなかったのかしら?」

「たしかに皆、口を揃えて、町の東側にはなにもないと言っておったのう」

「少し破損(はそん)している箇所はあるようだが、遺跡にしては新しすぎる気もするしな」

「そうでした! (わたくし)、思い出しました!」


 突然、リアが大きな声を出し、馬のルディが驚いて止まってしまった。


「リアよ、なにを思い出したというんじゃ?」

「はい。書庫で読んだ書物の中に、神聖リュクス帝国の二大宗教に係わる記述(きじゅつ)があった事を思い出したのです」

「神聖リュクス帝国といえば、リュクス神聖国となる100年前まであった国の事じゃな」


 リアの話によると、目の前の建物は、100年前まで神聖リュクス帝国での二大宗教の1つであったカダーロ教の聖地であったらしい。二大宗教のもう1つはラフィール教であり、その聖地は、現在の首都であるリュクサンブールであった。


「100年前リュクス神聖国となりましたときに、ラフィール教が国教と定められたのでございます」

「ならば、カダーロ教はどうなったんだ?」

「はい。カダーロ教は邪教(じゃきょう)とされてしまい、崇拝(すうはい)されていた神も邪神(じゃしん)として封印(ふういん)されてしまったと記述(きじゅつ)がありました」

「なるほどのう。だからメーリングの町の人々は、ここにはなにもないと言っていたのじゃな!」

「ここは、旧カダーロ教聖地でもなんでもない、そういうわけだな!」


 建物に近づいてみると、全体は城壁(じょうへき)(おお)われ、かなりの広さのようであった。


「でもこの場所に、名前が無いのは可哀想(かわいそう)だよ」

「ニコラちゃん師匠がそう(おっしゃ)るのならば、名もなき村というのはどうでしょうか?」

「うん! ここは、名もなき村だね!」


 リアの発案により、この場所を名もなき村と呼ぶことにした。


 村の入口らしき場所に進むと、木材を鉄でとめた立派(りっぱ)観音(かんのん)開きの門があり、右側だけ開かれていた。


「これは村というより、巨大な聖堂のようじゃのう!」


 村に入ると、聖堂同士を繋ぐ階段が上下に複雑(ふくざつ)に交差しており、その隙間(すきま)から空を見ることができた。空が見える部分は中庭のようになっており、ポツポツとではあるが人の姿を確認することができた。

 馬車から降り、全員で外を歩く。


「さすが元聖地じゃのう。何処(どこ)を見ても神々(こうごう)しさを感じずにはおられんわい!」

「聖堂が折り重なるようにあるなんて、他では見ることができない光景(こうけい)でしょうね!」


 村人らしき人たちは、ステンドグラスや神々(こうごう)の姿が彫られた柱などが(あふ)れる中に、壁に寄りかかったり、地面に座り込んだりしていた。


「なんというか、この村の人達から生気(せいき)を感じられないわね」

「そうじゃのう。活力を感じぬ、(すさ)んだ目をして者ばかりじゃ」

「話ができそうなやつがいないか、少し探してみるとしよう」


 少し進むと開けた場所があり、馬車を止め、ルディを近くの木に繋ぎ直した。


「ここでなら野営もできそうね」

「交代で見張りをしながら、という事になりそうじゃがのう」


 馬車の前で話していると、サクッサクッという音が聞こえてきた。


「これは、(くわ)で畑を(たがや)している音ではありませんか?」

「もしそうならば、話ができるヤツに違いないぞ!」


 音のする方に進んでみると、服はボロボロであるがガタイの良い男が、(くわ)を振り下ろし畑を(たがや)していた。


「そこの青年よ。ちと話をさせてもらってもよいかのう?」

「…………」


 その男は声が聞こえないのか、(くわ)を振り続けている。


「なんじゃ? ワシの声が聞こえんかったのじゃろか?」

「次はワタシに任せろ!」


 ジャクリーヌは畑の外から、男のすぐ横まで歩み寄った。


「ワタシはジャクリーヌ。この地に関する話を聞きたのだが、良いか?」

「…………」


 ジャクリーヌは、ハッキリと大きな声で話しかけたが、その男はピクリとも反応せずに、ただ(くわ)を振り続けている。


「これは駄目なようじゃの。なにか話を聞ければと思ったんじゃが、(あきら)めるしかないようじゃのう」

「全くワタシに気づいてくれなかった……」


 ジャクリーヌは、ガクンと肩を落として戻ってきた。少し落ち込んでいるようだ。

 一旦、馬車の前に戻り、今後の事について話そうとしていると、ボロボロの服を着た女が近づいてきた。


「あの日、我々の前から神が消えてしまった……そして、目の前から幸せは消え失せ、生きる気力を失った……おお神よ、再び我々の前に現れ、幸せを、生きる力を……」


 そう話すと、女は何処(どこ)かへと行ってしまった。


「一体、今の女はなんじゃったんじゃ?」

「もしかして、この村は(のろ)われているんじゃないか?」

「あり得るかもしれません。様子が可怪(おか)しすぎます」


 名もなき村こと旧カダーロ教聖地は、本当に(のろ)われているのだろうか?

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