第60話 メーリングの町3
「店主よ、店の入口にあった見えない壁はなんじゃったんじゃ? 魔法ではないようだったんじゃが」
「あれは、魔法の鏡と呼ばれる特別製の硝子ですじゃ。外からは中が見えませんが、内側からは見えるという摩訶不思議なものでございますな」
「ボクの世界にも、似たようなものがあるよ! だけど、突然消えたりはしないけどね!」
イザベルとジャクリーヌは、再び現れた魔法の鏡を不思議そうな顔をしながらペタペタと触っている。
「店主様、私たちはパスの仕組みについてお教えしてもらおうとやってきたのですが」
リアがさらに鼻息を荒くして尋ねた。店主によると、この商店街は全ての家から地下階段で繋がっており、それぞれの家に魔力認証が施された扉があるらしい。その扉は対応するパスがないと出入りできず、パスの発行を許されているのは町の人間のみということだった。
「あなた方が持っておられるパスは、1日だけ使用できる特別なパスということですな」
特別なパスは、ロレンツォに認められた者だけに与えられるもので、買い付けに来た商人でも、1年以上かけて信頼関係を築きあげた上で、やっともらえるというものであった。
「なんか知らんが、ワシらはロレンツォのヤツに気に入られておるようじゃのう!」
「実際は違うのだが、ワタシ自身が偉くなったような気分になってしまうな!」
そう話すシモンとジャクリーヌは、こみ上げてくる笑いを抑えられず、にやにやとしている。
「最後にお伺いしたいのですが、このパスの装置を発明されたのは、店主様なのでしょうか?」
「いいえ、わしではございませんな。リュクス神聖国の何処かに住む人物とまでしか、聞き及んでおりませんのですじゃ」
店主はボゼッティ家からの雇われらしく、詳しい事情は知らされていなかった。
「だが、こんな凄い機能を持ったパスの修理をしておるんじゃ。元凄腕の魔術具職人かなにかだったのじゃろう? 知識と技術を持ってなければ、できん事じゃろうからのう!」
「それが、ただの素人なのですじゃ」
この店に雇われたのは、この町で最も容姿が魔法使いっぽいという理由だったらしく、着ている魔法使いっぽい服も制服で、話し方も指示されてそれっぽくしていたのであった。
「ちょっとお待ちください。素人の方でもパスの修理を行う事ができる、そういう事なのでしょうか?」
「はい。専用の装置と取扱説明書があれば、誰でも修理できますじゃ」
「なんという事でしょう!」
リアは、信じられないという顔をしている。というのも、リアの生まれ育った鍛冶師の村では、外に技術を出さずに守り通すことが掟となっており、誰でも簡単に使えるものを作り世に広めるといった事など、一切考えたことがなかったのだ。
「ワシ、たぶん、パスの装置を発明した人物がわかったぞい」
「なんと、シモン様のお知り合いの方なのですか?」
リアは余程期待しているのか、シモンに熱い眼差しを向けている。
「リア、すまんがワシの知り合いではないのじゃよ。師匠のペテルセンが文通をしておった相手でのう、発明品を世に広める広めないでやり取りしておったのじゃ!」
「その方は、なんと仰るのですか?」
「ビル爺さんじゃ! 詳しくはわからんが、本名は本人もわからんらしいのじゃよ」
「まあ! 謎多き方で、興味深いですね!」
どうもリアは、知識に限らず謎めいたものが好きなようだ。
「ということは、じじい。ビル爺さんの住む場所も知っているのだな!」
「いや、それがわからんのじゃよ。ビル爺さんが飛ばした伝書鳩が怪我をしておったのを、たまたま師匠が保護したのが文通の始まりだったからのう。相手の住処まではわからんのじゃ! じゃが、店主のお陰でリュクス神聖国に住んでおる事はわかったのう!」
「それでは旅の道中、お会いする事があるやもしれませんね!」
リアは、期待に胸を躍らせているようだ。パスの装置の知識にしても、自分とは異なる考え方にしても、ビル爺さんと会って話をしてみたいのだろう。
勇者たちは情報収集を終え、馬車を取りに厩舎へと戻った。
「あんたたち、帰ってきたね。どうだったかい、下の方は?」
「地下にあんな大きな商店街があるとは、とても驚いたわ!」
「そりゃあ、良かったね! ただ、そこで見た事は誰にも言っちゃいけないよ。それが、この町の決まりだからね!」
笑顔で話していたおばさんが、急に真面目な顔をしてそう言った。冗談ではないという事だろう。
「それと、またロレンツォ様が来られてねえ、これをあんたたちに渡してくれって頼まれたんだよ」
イザベルは、おばさんから畳まれた大きな布を渡された。
「おばさん、これはなにに使うものなの?」
「さあ、わからないけど、最初にロレンツォ様が来られたときに、馬車のサイズを計っておられたからね。馬車に被せるものかもしれないねえ」
厩舎のおばさんに別れを告げ、馬車で町の東側の出口へと向う。
「あの地下の商店街、一体なんだと思う?」
「なにかを見据えて作られたものじゃと思うが、それがなにかはわからんのう」
「リア、あなたはどう思う?」
「私は、首都リュクサンブールから軍が攻めてくることを想定した、籠城するための施設ではないかと思っています」
馬車の手綱を握るリアは、手前にある小窓から答えた。
「なるほどのう。ロレンツォのヤツだったら、そこまでの事を考えてもおかしくないのう!」
「もしかしたら、もっと凄い事を考えてるのかもしれないわよ!」
「なんだ? そのもっと凄い事とは?」
「首都の移転とか?」
「さすがにそれはないじゃろう!」
「まあ、言ったあたしも、それはないと思うわ!」
「なにを言ってるんだ、イザベルは!」
『わっはっは!』
勇者たちの乗った馬車は、賑やかにメーリングの町を後にした。
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