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第58話 メーリングの町1

「メーリングの町に上陸っと!」


 船から渡された木の橋を進み、ポンッと陸地へと降りるイザベル。


「もっと重々しい雰囲気(ふんいき)かと思ったら、そうでもないのだな」

「どうせ、神殿が町の中に点在(てんざい)するようなものを想像しとったのじゃろ? 聖地である首都(しゅと)リュクサンブール以外は、王都の町とそう変わらんよ!」


 港には漁船もちらほらあるが、レンガでできた大きな倉庫が沢山あり、貿易(ぼうえき)港のようであった。


「皆様、お待たせ致しました」

「お待たせ!」


 シモンたちが船の前で待っていると、リアと勇者が馬車に乗ってやってきた。


「お主たち、だいぶ前に馬車まで行ったのに、ずいぶんと時間がかかったのう」

「はい。(わたくし)たちの前に、ものすごい数の荷馬車が出ていったものですから、かなり待たされてしまいました」


 リアの言うものすごい数の荷馬車は倉庫の前に止まっており、荷物の積み下ろしが(せわ)しなく行われている。


「あれ? 倉庫の上に同じマークが並んでる! あれはなに?」

「ニコラちゃん、よく気付いたのう! あれはボゼッティ家の家紋(かもん)じゃよ!」


 その家紋(かもん)は鳥が羽を広げたようなものであり、勇者の(よろい)刻印(こくいん)されたものと少し似ていた。


「ということは、この港にある倉庫は、全てボゼッティ家のものなのか?」

「リュクス神聖国の貿易(ぼうえき)は、全てボゼッティ家に一任(いちにん)されているらしいのじゃ」


 リュクス神聖国の政府は、国教であるラフィール教の幹部(かんぶ)たちのみで構成されていた。以前、国で一番力を持つボゼッティ家の前当主が国政に介入(かいにゅう)しようとしたために、貿易(ぼうえき)に関する全ての権利と、ボゼッティ家の領地であるジンドルフの村に独立国家並みの自治(じち)権を与える事を条件(じょうけん)に、それを阻止(そし)して今に(いた)るという事らしい。しかし、現当主であるロレンツォは全く政治には興味(きょうみ)のない純粋(じゅんすい)な商人であったため、その力を商人として行使(こうし)し、世界有数の大商人に成り上がったのだった。


「さあ、町に行って情報収集を始めましょう!」

「まずは、この国の現状(げんじょう)を確かめるという事だな! 情報がなければ、何処(どこ)に行けばいいかさえわからないからな!」

(わたくし)、書物で見たこの国の情報でしたらわかりますけれど」


 リアは鼻を高くするようにしてそう言った。


「リアよ、それがのう、何十年か前にワシとイザベルで旅をしておった時、ここに来た事があるんじゃが、こんな立派な港はなく、ただの小さな漁村(ぎょそん)だったのじゃ」

「あのときは大変だったわねえ。今みたいに定期船なんてないから、漁船(ぎょせん)に乗せてもらってここに上陸したのよね。地元の漁師(りょうし)のフリをしてたけど、見つかっちゃって大変だったわ!」

「結局、すぐに戻る羽目(はめ)になったのじゃったな!」


 そう話すシモンとイザベルは、はじめて冒険に旅立つ少年のような目をしてた。その時の情景(じょうけい)を思い返しているのだろう。


「つまり、リュクス神聖国は国内の情勢(じょうせい)が安定しておらず、過去の知識は当てにすることはできない、という訳ですね」

「まあ、そういう事になるのう」


 勇者たちは、港と町の(さかい)にある厩舎(きゅうしゃ)に馬車を(あず)け、町での情報収集を開始した。

 メーリングの町は、石造りの白っぽい壁で山吹色(やまぶきいろ)の屋根の家が、(つら)なるように建ち並んでいた。


「いやあ、不思議(ふしぎ)よね。前来たときは、ボロッちい木造(もくぞう)の家がポツポツあっただけなのに、こんなに変わるものかしら?」

「見渡した限り、貧民街(ひんみんがい)のようなものもなさそうじゃのう」

「リュクス神聖国が、住宅の支援(しえん)でもしているのでしょうか?」

「とりあえず、酒場を探すぞ。困ったときは、呑んだくれてるヤツらに1杯(おご)る。これが情報収集の基本だからな!」


 ジャクリーヌの言葉に(したが)い、酒場を探す。


「どういうことじゃ? 酒場もないが商店も全くないのう」

「人っ子一人歩いてないぞ! こんなに家があるのにどういう事だ?」


 厩舎(きゅうしゃ)で馬車を(あず)けた時以来、勇者たちは人と全くすれ違うこともなかったのだった。


「一旦厩舎(きゅうしゃ)に戻って、受付のおばさんに聞いてみましょう」


 厩舎(きゅうしゃ)に戻ると、受付のおばさんが(あわ)てるようにしてこちらに近づいてきた。


「あんたたち、待っていたよ。今さっきロレンツォ様がここに来られてねえ。このパスを渡すように頼まれたのさね」


 受付のおばさんは、七色に輝く金属のようなものが埋め込まれた、カードサイズの薄い木の板を持っていた。


「えーと、あんたたちは男1人に女4人で間違いないね?」

「違うぞい。ニコラちゃんはこう見えて男じゃ。あと、猫も1匹おるぞい」


 受付のおばさんは、勇者の美しい顔立ちを見て、女だと勘違(かんちが)いしていたようだ。クンはシモンに紹介されて、勇者の襟巻(えりま)きから顔と前足を出している。


「おばさま、それはなにをされているのですか?」

「あんたたちを、このパスに登録してるんだよ」


 そろばんのようなものの上の方に木の板を差し込み、(たま)をパチパチと指で(はじ)いている。


「これを、奥にある(とびら)にかざしてご覧。中は見てのお楽しみだよ」


 パスを受け取り、厩舎(きゅうしゃ)の奥へと向う。


「あっ! ルディがいるよ! おーい!」

「お食事に夢中で、こちらには気づかれていないようですね」


丁度(ちょうど)、馬の(えさ)の時間だったらしく、ルディが美味しそうに牧草を食べる姿を見ることができた。


「おい! (とびら)はあったが、ドアノブがないぞ!」


 その(とびら)は、木の板を金属でとめてある丈夫そうなものであった。しかし、ジャクリーヌが言うようにドアノブがなく、ドアノブがあるべき場所には、七色に輝く金属のようなものが埋め込まれていた。


「ここに、パスをかざすのではないでしょうか?」


 そう言いながら、リアがパスをかざず。すると、(とびら)がキィーという音を立てながら独りでに開いた。その先は、地下へと降りる階段となっており、少し薄暗くなっていた。

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