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第47話 ズルツバッハ街道3

「戻ったよ!」


 勇者とリアが厨房(ちゅうぼう)から戻ってきた。鍋を囲炉裏(いろり)に吊るすと、グツグツした鍋の中に、チーズをおろし金ですりながら、大量に振りかけた。そして一旦、木の(ふた)をした。


「できたよ! どうぞ召し上がれ!」


 (ふた)を開ける勇者。リアが鍋の中身を、人数分よそいわける。


「これは米が入っておるのう! お楽しみというのはリゾットだったのじゃな!」

「みんなが鍋を食べている間に、お米を炊いていたんだ! 少し(しん)が残る、アルデンテに炊きあげるのがポイントなんだよ!」


 宿の厨房(ちゅうぼう)にはかまどがあり、勇者も納得の渾身(こんしん)の炊き具合で、ご飯ができあがったらしい。


「さっきの鍋で腹が一杯になっていたのに、不思議と入ってしまうな! トマトとチーズと米、この3つのコンビは物凄く合うのだろうな!」

「やっぱり、鍋のシメはご飯だよね! ただ、味噌と醤油があれば、もっといろんな鍋ができるんだけどね」


 勇者が少し寂しげにそう言った。


「あんたは味噌と醤油を知っとるんけ?」


 リゾットを食べていたグレーテが、突然、勇者の話に反応した。


「グレーテさんは味噌と醤油を知っているの?」

「おらの死んだあんちゃんがつくってて、料理にして食わせてくれてたのさ。あの味さもう一度食いてえと思ってっけど、誰も作り方さ知らねえのさ」


 勇者はグレーテの話を聞き、ますます味噌と醤油作りがやりたくなった。



 食事の片付けも終わり、勇者たちは馬車でひとっ風呂浴びた。


「いやあ、いい風呂じゃったのう! 城の風呂が(かす)んでしまう(くらい)の湯質で、驚いてしまったわい!」

「馬車のお風呂、どういう仕組なんだろうね?」


 馬車の風呂は、なんと源泉(げんせん)かけ流しの温泉であった。


浴衣(ゆかた)まで用意してもらって、高級旅館にでも泊まっておるようじゃな!」

「この浴衣(ゆかた)、着心地が良くて(すず)しいね!」


 勇者とシモンは、白の生地(きじ)(こん)色の格子(こうし)(がら)が入った浴衣(ゆかた)を着て、女将(おかみ)が用意してくれた部屋の布団に寝転がっている。


「リア、あの風呂はどうなっているんだ?」

「はい。あれは、1番近くの源泉(げんせん)を見つけ出して呼び出すというものでして、移動する(たび)に、異なる温泉に入れるというわけでございます」

「しまったわ! ノルトハイム平原でも入るべきだったわね!」


 勇者たちの後に風呂に入った、ジャクリーヌ、リア、イザベルの3人が、浴衣(ゆかた)姿で部屋に戻ってきた。


「ぬおー! ()れた髪に浴衣(ゆかた)姿! ニコラちゃん、これは(たま)らんのう! 2人で話しているフリをしながら、こっそり(おが)ませてもらうとするぞい!」


 興奮したまま、隣の布団の勇者に小声で話しかかるシモン。


「すー……すー……」


 しかし、勇者は寝息をたてて、すやすやと眠っている。


「なんと勿体(もったい)ない! ニコラちゃんは惜しいことをしたのう!」


 シモンは、ジャクリーヌたちがいる方に身体を向けて目を閉じた。どうも、寝たふりをしながらこっそり見る作戦に切り替えたようだ。


「それにしても、ジャクリーヌ様の身体。(わたくし)から見ても、とても色っぽいですね」

「リア、なにを言っている! ワタシはただ(きた)えているだけだぞ! だいたいなんで、風呂の中で2人に胸を()まれなくてはならなかったんだ?」

「!? ブハー!」


 こっそりと話を聞いていたシモンから、鼻血が吹き出した。


「これはいかん!」


 シモンはそれを手で隠し、上手く誤魔化(ごまか)したつもりのようだった。しかし、イザベルはそれを見逃さなかった。


「リア! 男も女も悩殺(のうさつ)してしまう、わがままボディのジャクリーヌを、あたしと一緒にひん()くわよ! とりゃぁぁー!」

「イザベル! やめないか!」


 ジャクリーヌを追いかけ回すイザベル。楽しそうだからと、リアも一緒に追いかけている。

 走り回るうちに、3人の浴衣(ゆかた)が少しづつはだけていく。寝たふりをしていたシモンの目も、ギンギンに開いていく。


「!? あっ!」


 イザベルが布団につまずき、前を走っていたジャクリーヌの浴衣(ゆかた)(つか)む。そして、浴衣(ゆかた)がずり下がっていく。


「!? ブブバハー!!」


 シモンは噴水のように鼻血を噴き上げ、昇天(しょうてん)してしまった。その表情は、(おだ)やかでとても綺麗(きれい)なものだった。


「なにをするんだ! イザベル!」


 ジャクリーヌの身体のラインが(あら)わになる。


「まあ、タイツを着ているからいいけどな!」


 ジャクリーヌは浴衣(ゆかた)の中に、タイツを上下に着ていた。


「それよりシモン様は、何故(なぜ)鼻血を噴き出されたのですか? 寝ていらしたようですけど」

「もしや、じじいは寝たふりをしていたな! しかも、イザベルはそれがわかった上で、わざとコケたな!」

「あちゃー、バレちゃったか!」


 手を頭に置き、下をペロリと出しながら、イザベルはそう言った。


「この! エロじじいとエロエルフめー!!」


 ジャクリーヌのその声は、宿の外を走る馬車にまで(ひび)いていた。



「おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう!」


 ぺちぺちぺちぺちぺち、クンが自慢の肉球で5人の(ほお)をたたく。これが、勇者パーティーの正しい朝の迎え方である。


「おろっ? ワシはいつの間に眠っておったのじゃ? なにかいいモノを見たような記憶はあるんじゃが、それがなにかを思い出せん……」

「おじいちゃん、それはジャクリーヌの……」

「やめろ、イザベル! お前たち2人は、港町ローゼンに着くまで馬車の中で説教だからな! 覚えていろ!」


 ジャクリーヌは、昨夜の出来事(できごと)を根に持っているのか、機嫌が悪い。


「ジャクリーヌ様の寝起きが良いのは、よいお酒を呑まれたからなのでしょうか? それとも機嫌が悪いからなのでしょうか?」


 リアは朝から、(みょう)な事に興味を()かれている。



 朝食を済ませ馬車に乗り込むと、ジャクリーヌの機嫌は直っていた。


「そんじゃ、出発すっぞ」


 馬車が港町ローゼンに向かって出発する。手綱(たづな)を握るのは、なんとグレーテである。


「いやー、それにしても朝飯のフレンチトースト旨かったのう!」

「あたし、昔食べたことあったんだけど、あんなに染み染みじゃなかったわ!」

「あれは、昨日の晩からパンを卵液(らんえき)につけておいたそうですよ。さすがニコラちゃん師匠。とっても勉強になります」


 勇者が朝食に出したフレンチトーストが好評で、特にジャクリーヌとグレーテがその味をたいそう気に入り、お礼にとグレーテが馬車の操縦に名乗り出たのであった。

 話をしていると、御者(ぎょしゃ)の席にいたクンが前方の小窓から中に入ってきた。


「グレーテさん、めちゃめちゃ馬車の操縦上手いよ」

「さすがに、リアよりも上手いということは無かろうて」

「それがリアより上手いんだよ! もしかしてプロなんじゃないかって(くらい)に!」

「それでしたら(わたくし)、前に移って操縦技術の勉強をしなくては!」


 クンの言葉に気合が入るリア。先程から全然話さないジャクリーヌはというと、フレンチトーストを食べてから、虚空(きょくう)を見つめては笑顔を浮かべ続けている。きっと、お菓子の世界にでも旅立ってしまっているだろう。

 ちなみに、グレーテは若い頃、戦車競走と言われる馬車を使ったレースの選手をしており、男たちに混ざり大活躍していた。そこで、お客として観戦していた旦那となる人と出会い、結婚後、選手を引退して2人で宿を始めたという事であった。つまり、クンの予想は当たっていたのだ。



 トイレ休憩(きゅうけい)となり馬車が一旦止まる。今回の旅はグレーテが一緒のため、馬車のトイレは使用しいていない。

 バン、馬車の扉が開き勇者たちが戻ってきた。


「んっ? なんの音だ? ここは何処(どこ)だ?」


 扉の音で、ジャクリーヌがお菓子の世界から帰ってきた。


「おかえり、ジャクリーヌ! やっと正気(しょうき)に戻ったみたいね!」

「そこの宿でトイレ休憩(きゅうけい)した所じゃよ。女将(おかみ)のお(かげ)ですんなり借りる事ができたわい」


 トイレを借りた宿の女将(おかみ)とグレーテは知り合いで、交渉するまでもなく顔パスで済んだのだった。


「それでは、出発いたします」


 リアの合図で、再び港町ローゼンに向かって馬車が動き出した。

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