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第46話 ズルツバッハ街道2

 いつの間にか夕日はかなり沈み、頭が(わず)かに(のぞ)くだけとなっていた。


「いかん! 暗くなってしまうぞ! 急いで野営の準備に戻ろう!」


 宿『神水(くわみず)跡地(あとち)まで戻り、さっそく野営の準備に取り掛かる。


「どしたんだ、さっきの揺れは? てえした事でも起きたんけ」


 野営の準備をしていると、宿の扉から独特の(なま)りで話す老婆が出てきた。


「あら、グレーテ様ではありませんか。大変お久しぶりでございます」

「んっ? ……あんたリアか? どした? こんなとこさ来て?」


 リアがグレーテと呼ぶ老婆は、上品な(がら)の入った(こん)色の着物を白い(ひも)でたすき掛けにし、白い前掛けと、白い手ぬぐいを頭に着けていた。話し方から、田舎(いなか)のお婆ちゃんのような印象を受けるが、何処(どこ)と無く彼女の振る舞いには、気品があるように感じられた。


「リア、えらい大きくなったもんじゃねえ。何年ぶりけ?」

「7年ぶりでございますね。グレーテ様はお元気なようで」


 リアの肩に両手を置き、ポンポンと動かすグレーテ。まるで、孫と祖母が久しぶりに会ったかのようだ。

 勇者たちは状況が(つか)めず、2人が話す様子をポカンとした顔で見ている。


「そうでございました。ご紹介がまだでしたね。こちらは、宿『神水(くわみず)』で女将(おかみ)をされていた、グレーテ様でございます」

「おらはグレーテだ。グレーテとでも女将(おかみ)とでも好きに呼んでけれ」


 勇者たちも順番に紹介を済ませる。勇者に関する情報は()せてだが、旅の途中であることはグレーテに伝えた。


「そったら宿に泊まってけ。布団も干したばっかだ。ええ寝心地にちげえねえぞ」


 グレーテは、閉館した宿の荷物の整理に来ていたらしい。


折角(せっかく)お誘い頂いたのですから、お言葉に甘えさせてもらいましょう」

「そうじゃのう! ワシもこの宿には、1度泊まってみたいと思っておったんじゃ!」

「リアの思い出話に女将(おかみ)が加わると、より一層楽しくなりそうだしな!」

「お礼に、ボクがご飯作るよ!」


 勇者たちは、宿『神水(くわみず)』で1泊させてもらう事になった。



 宿の入ると、囲炉裏(いろり)のある食堂のような部屋に案内された。


「おめえたち、突っ立ってねえでそこさ座れ。おらが飯の支度さしてくっから」


 グレーテに言われて、囲炉裏(いろり)(かこ)んで座布団に座る。


「おばあちゃん、ボクがご飯作るよ! 泊めてもらうお礼に!」

「そうけ。そったら厨房(ちゅうぼう)さ案内すっぞ。ちいと入り組んどるのでな」


 勇者はグレーテに案内されて、厨房(ちゅうぼう)に向かっていった。


「あたしずっと思ってたんだけどさあ、ここって物凄く鍛冶師の村に似てない?」

「たしかに、庭の造りから建物の造りまでそっくりじゃな!」


 建物は白壁に銅の屋根と、柱こそ朱色でなかったが鍛冶師の村のものと似ていた。庭も村で見たような雰囲気(ふんいき)のものであったのだ。


「はい。それはですね、ここの庭や建物の材料が、全て鍛冶師の村で作られたものだからなのですよ」


 リアは鼻息をフンと吐きながら、(ほこ)らしげにそう言った。


「それは変ではないか? 鍛冶師の村と外の(つな)がりがあるのは、王族だけのはずだろう?」

「それはおらの爺様(じさま)のお(かげ)さ」


 グレーテがおぼんになにかを載せて、部屋に戻ってきた。


「死んだ爺様(じさま)は、先々代の国王様に気に入られておったのさ。城の仕事さ()めて、宿を始めると国王様さ話したら、材料さ全て手配してくれたのさ」


 グレーテはそう言いながら、3種の漬物が載った小皿と、(ます)に入れられたコップを配った。リアと勇者の席には、湯呑(ゆのみ)が置かれた。


「なるほど、ここと鍛冶師の村の(つな)がりは、そういうことだったのだな!」

(わたくし)もその話は、始めて聞きました。そこから、この宿と鍛冶師の村の交流が始まったのですね」


 リアの言った通り、それがきっかけとなり、『採取体験の旅』でこの宿が使われるようになったのであった。


「準備できたよ!」


 話をしていると、勇者が持ってきた鍋を囲炉裏(いろり)に吊るした。


「今晩は鍋料理にしたから、自分でよそって食べてね!」


 勇者はそう言いながら、最後の仕上げに、水菜を入れ、チーズをおろし金ですりながら、大量に振りかけている。そして一旦、木の(ふた)をした。


「できたよ! どうぞ召し上がれ!」


 (ふた)を開ける勇者。お(わん)(はし)もいつの間にか全員に行き渡っていた。


「……それでは、手をあわせてください!……いただきます!!」

「いただきます!!」


 シモンの号令(ごうれい)につづき、いただきますの合唱(がっしょう)をしたあと、さっそくお玉で鍋をよそう。


「この赤い色と香りは、トマトのスープね! どれどれ……一緒に煮込まれた肉や野菜から出汁(だし)がでて、まろやかな味に仕上げっているわね!」

「そのスープはね、トマトの水煮をつぶして、鶏ガラスープと合わせたものなんだよ。鶏ガラスープは、前もって作ったものを冷凍保存していたんだ!」


 勇者によると、本当はコンソメを使いたかったが、なかったため鶏ガラスープで代用したらしい。


「煮込まれて出汁(だし)を吸った白菜に、最後に入れられたシャキシャキの水菜。それに大量にかけられたチーズがとろけて混ざり、濃厚な味わいになっておるのう!」

「鍋の下の方に、鳥肉や豚肉もあるから、キレイに食べてね! その後にお楽しみがあるんだよ!」

「こんな美味しいお料理のあとに、さらにお楽しみですって! (わたくし)、全て(たい)らげてみせますとも!」


 お楽しみがあると聞き、一層食欲が増す。リアの目はお楽しみを求めて、キラキラと輝いていた。


「その輝く目、あの頃とちっとも変わらんねえ」

女将(おかみ)、あの頃というと、リアたちが泊まりに来た時の事か?」

「そんだ。7年前のあの日も、リアは目を輝かせとった」


 7年前、12歳のリアは、鍛冶師の村の子供達と共に、宿『神水(くわみず)』を訪れた。始めて村の外に出た子供達は、目を輝かせ、見たもの全てに興味を持ち、女将(おかみ)であるグレーテに話を聞いてきた。


「その頃の(わたくし)は、野草(やそう)に興味を持っておりまして、宿を抜け出してはこの辺りを探索したものです」


 リアは美しい思い出を語るように、顔の下で手を組みながら話した。


「リアがいなくなる度に、おらと子供達は探しにでたのさ。1晩に5回もだ。あの晩のことは忘れられねえな」


 グレーテの口調は少し荒くなったが、表情は笑顔になっている。今となってはいい思い出ということだろう。


「リアは昔からそうじゃったのか。今と全然変わらんのう!」

「それから7年、(わたくし)、成長したのですよ。好きなものを追いかけわますなんてことは、もういたしません」


 両手を腰に当て、フンと鼻息を荒くするリア。


「なにを言ってるの、リア。王都ではそれが原因で、事件に巻き込まれたばかりじゃないの!」

「まだそったらことしとるのけ? リアは変わらんねえ」


 グレーテは(あき)れるを通り越して、感心しているようだ。


「それが、リアらしさだしね! そのままでいいとあたしは思うわ!」

「どうせ直そうとした所で、直らんじゃろうしな!」

「リアはこのまま婆さんになってしまうのか。それは凄まじい婆さんだな!」

『わっはっは!』


 みんなが笑っている横で、プクッと(ほお)(ふく)らませる、リア。グレーテがそっと頭を()で、リアに笑顔が戻った。


「鍋の具もなくなったみたいだから、ボクはお楽しみを作ってくるね!」

(わたくし)もお手伝い致します」


 勇者とリアは、鍋を持って厨房(ちゅうぼう)に向かっていった。


「そったらあんたたちには、これをご馳走(ちそう)しようかねえ」


 グレーテは、後ろに置いていた一升瓶(いっしょうびん)(ふた)を開け、(ます)に入れられたコップが(あふ)れ、(ます)が一杯になるまで透明の液体を注いで回った。


女将(おかみ)、これは米でできた酒じゃのう!」

「おらの町の酒だ。たっぷりあるから、たんとおあがり」


 酒をこぼさないように、コップを持ち上げて口元に運ぶ。


「清涼感あるすっきりとした味わいじゃな!」

「呑みやすくて、女将(おかみ)の漬物とも合うな!」

「きっと、ニコラちゃんたちが持ってくる、お楽しみとも合うはずよ!」


 グレーテに振る舞われた酒を堪能(たんのう)する、酒好きの3人。


女将(おかみ)、おらの町と言っていたが、港町ローゼンの出身なのか?」

「そんだ。片付けが一通り済んだんで、明日帰るとこだったのさ」

「それなら、ワシらの馬車で行くとよい。丁度(ちょうど)港町ローゼンに向う所だったのじゃ!」

「そんなら、お言葉に甘えるとすっかな」


 港町ローゼンに、グレーテとともに向かうこととなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ご飯回を読むといつもお腹が空きますね! 美味しそうでした。
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