第44話 王都リットベルガー9
「旨い料理に旨い酒、こいつは堪らんのう!」
「私、2日も続けてこんな豪華なお料理を頂いたのは、始めてでございます。研究すべき料理が沢山ありすぎて、とても嬉しいです」
「これは旨いな! 支配人! 『ちょっと料理長呼んでくれ! 一言、礼がしたい!』」
ジャクリーヌが支配人のヴェラにそう告げた。
「ジャクリーヌ、またそれなの? 昨日やったからもういいんじゃない?」
「なにを言っている! 昨日のは立ち食いだったんだ! 席に座ってやってこそ、ワタシの夢が叶うというものだ!」
王と王女の前なのに、いつもの調子のジャクリーヌ。
「お呼びになられましたか? ジャクリーヌ様」
「呼んだか? 隊長?」
なんとジャクリーヌの前に、料理長とゲルベルガの2人がやってきた。
「何故2人なんだ?」
「本日は特別な日なので、料理長2人体制といたしました」
「昨日の晩、コイツと2人でメニューを考えたんだぜ! いやー、久々に楽しかったぜ! な! トビアス!」
「わたしも師匠との修行時代を思い出して、ワクワクしました」
料理長とゲルベルガはとても楽しそうだ。
「パウル。この男の紹介をしてくれんかのう。名もわからねば話もできん」
「シモン、お前気づいていないのか? そいつはラルスだ! 昨日助けたな!」
シモンと隣に座る気品のある男はラルスであった。昨日と違いボサボサだった髪や髭は整えられ、ボロボロの服から高貴な服に変わっていたため、全く気付くことができなかったのだった。
「昨日はあんなに衰弱しておったのに、大丈夫なのかのう? ラルスよ」
「あれは腹が減っていただけです。3日ほど飯を抜かれていましたからね」
ラルスの話によると、食事は3食ちゃんとハンスにより運ばれていたらしい。しかしその3日は、事件の準備で、ハンスの手が回らなかったのだろうということであった。
「皆の者、こちらを注目するがよい!」
パウルが席を立ち話し始めた。
「乾杯の時に少し話したが、ここ『星三つ』のオーナーを、弟ハンスに代わり、兄ラルスが引き継ぐこととなった。これにより、王都はさらに発展していくことだろう!」
パチパチパチ、ラルスに拍手が送られ食事会はさらに盛り上がった。
ここでは話されなかったが、弟ハンスは事情聴取の後、城地下の牢屋ではなく、兄ラルスが入れられていた牢屋に入ることとなった。元々のハンスは優しい人物であり、腹違いの弟と名乗る男により洗脳されていたと考えられ、兄ラルスがその洗脳から助け出すと王に直訴し、認められたためであった。
「さらにもう1つ報告がある!」
パウルがそう言うと、エバとラルスが立ち上がった。
「2人が結婚することが決まった! ただし、まだ公にはされておらん。まだ、誰にも言うなよ、お前ら!」
パチパチパチ、2人に拍手が送られ食事会は最高潮となった。
「ということは、次期国王はラルスということかのう?」
「まだ決まっておらんが、儂はエバにと思っておる! 一番良いのは、エバが男を産み、その子を次期国王とすることだな! お前たち、早く子をつくれよ!」
「まあ、お父様ったら……」
パウルの言葉にエバが赤面する。
「ねえ、あたし思ってたんだけど、エバさんの話し方が以前と全然違うのよね。どういうことなの?」
「そうじゃのう! 以前は上から目線のわがまま娘というか……しまった!」
シモンは失礼なことを言ってしまったと気付き、口を手で塞いだ。
「それはラルスを助け出すために、わざとわがまま娘を演じていたのだ。そうだな、エバよ!」
「ええ、お父様」
王女エバは、わがまま娘を演じることにより、様々な情報を手に入れていたのだ。ただしそれは、エバのずば抜けた賢さがあってこそのものではあるが。
「それでは儂らは帰るとするか! お前たち達者でな!」
「皆様よい旅を」
食事会も終わり、パウルとエバは一足先に城へと帰っていった。
「いやー、楽しい宴じゃったのう!」
「人の幸せを聞きながらの食事は、こちらまで幸せな気持ちになれたわね!」
「まさかワタシは、次期国王候補の話を聞けるとは思わなかったぞ!」
「それにしても、料理が沢山余ってしまいましたわね」
「そうだ! タッパーに詰めていこうよ!」
ワイワイ話していると、ゲルベルガがやってきた。
「お前たち少し待っていろ! 残った料理を、アレンジして重箱に詰めてやるからな!」
しばらく待っていると、三段重を抱えたゲルベルガと料理長が現れた。
「お前たちの旅の手助けをできるのはこれ位だが、俺とトビアスの気持ちが、しっかり料理に入れてある。沢山食って頑張れよ!」
「皆さん、また店に来られるのをお待ちしています」
勇者たちは三段重を5つ受取ると、裏口へ向かって歩きだした。扉から出るまでの間、ゲルベルガは手を振り続け、料理長は頭を下げていた。
「それにしても沢山持たせてくれたのう!」
「これ、食べきる前に悪くなっちゃわない? 大丈夫?」
「リアの部屋にあった真空パックができれば、保存できるのになあ」
勇者が何気に発した言葉が、リアの目をギラギラに輝かせた。
「ニコラちゃん師匠! 真空パックの装置、すでに完成させてあるのでございます」
リアはいつの間にか、鍛冶の部屋に真空パックの装置を作っていたのだった。
「真空パックにして冷凍しておけば、湯煎して美味しく食べられるよ!」
「それじゃあ、馬車に戻って作業じゃな!」
勇者たちは馬車に戻り、作業を行った。
「あたしたちの食料の充実ぶり、かなりのものじゃない?」
「正直、旅をしておることを忘れてしまうほどのものじゃな!」
「あとは、ニコラちゃんの母国の料理が食べられれば、ワタシは完璧だと思うぞ!」
「たしか、ミソとショウユでございましたね」
「うん! きっと港町ローゼンに行けば、作れると思うよ!」
美味しい料理を食べたばかりなのに、次の料理の話をする食いしん坊たち。
「そうです、ニコラちゃん師匠。探求の羅針盤を使って頂いてもいいですか? 魔石の定着はもう済んでいると思いますので」
勇者は懐から探求の羅針盤を取り出した。
「港町ローゼンがある東を指しますように!」
「針よ! 東以外向くな!」
「東じゃ! 絶対に東じゃ!」
探求の羅針盤に向かってお祈りをする、イザベル、ジャクリーヌ、シモン。
カパッ、出っ張りを押し探求の羅針盤の蓋が開く。
「あっ! 東を指してるよ!」
『やったー!』
祈っていた3人が手をつないで輪を作り、勇者の周りをクルクルと回る。
『ミソミソ♪ ショウユ♪ ミソ♪ ショウユ♪』
3人は謎の歌を歌いだした。リアは手拍子をしながら、笑顔でその様子を見守っていた。
「今から出発するか? 少し中途半端な時間だが」
太陽は、正午と夕刻の間位の位置にあった。
「王都から港町ローゼンまでは、街道が続いておるから問題なかろうて!」
「それじゃあボク、宿にルディを連れに行ってくるね!」
「私もご一緒いたします」
ルディを馬車に繋ぎ直して、東門までやってきた。
「それでは次の目的地、港町ローゼンへ向けて出発いたします」
勇者たちは、味噌と醤油を求めるついでに、5つの魔石の3つ目を求めて、港町ローゼンのある東へと向かっていった。
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