第43話 王都リットベルガー8
「おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう!」
ぺちぺちぺちぺちぺち、クンが自慢の肉球で5人の頬をたたく。これが、勇者パーティーの正しい朝の迎え方である。
「おはよう、みんな! 今日は、食料の買い出しに行くわよ!」
「昨日は事件のせいで、買い物が途中までしかできなかったからな!」
昨日は予定の半分、しかも食料に関しては全く買い物ができていなかったのだ。
「あら? ジャクリーヌ様がすんなり起きられるのを、私はじめて見ましたわ」
「きっと、いい酒を呑んだから目覚めがいいんだろうな! 今日はいい酒も買わなくてはいけないな!」
「昨日は疲れすぎて、グッスリ眠れただけじゃろて! まあ、いい酒を買うことはワシも賛成じゃがのう!」
話し合った結果、結局いつもの安酒を買うことになった。
さらに今日の予定を話していると、開いた窓から1匹の燕が入ってきた。
「何時ぞやの泥棒燕か! クン! そのコソドロを捕まえろ!」
ジャクリーヌの声を聞き、身を伏せて、お尻をフリフリさせるクン。狙いを定めているようだ。
「違いますよ。ぼくですよ」
ポンッという音とともに姿を現したのは、王のお付きの風の妖精パウであった。
「お前だとわかっていてわざとやったんだ! そうだよな、クン!」
クンはジャクリーヌの問いかけに、コクリと頷いた。
「もう、ジャクリーヌさまもクンちゃんも酷いですね」
プクッと頬を膨らますパウ。その姿はとても可愛らしい。
「お主が来たということは、国王様からの伝令じゃな?」
「その通りです。今日の正午、『星三つ』で待っているとのことでした。表向きは、再び改装中ということになっていますので、裏口からお越しくださいね」
「パウちゃん、もしかして帰っちゃうの? なでなでとかしたかったのに!」
パウにそう話すイザベルの目つきは、若干、変質者っぽい。
「パウ、国王様からもう1つ頼まれていることはないか? なにかを預かるとかな」
「そうでした、そうでした。国王様より、魔石の首飾りを預かるよう遣わされました」
頭をポリポリと掻きながら、そう話すパウ。その姿を、鼻息を荒くしながらイザベルが見ている。
「はい、どうぞ。パウ様」
パウがリアから首飾りを受取る。
「それでは、失礼させていただきます」
深くお辞儀をしたあと、窓に向かって進む、パウ。そして、受け取った首飾りを一旦床に置いた。
「そうだ、最後に1つ……クンちゃん、次にあったときは、悪戯しないでね!」
パウはそう言うと、ポンッと燕に変身し、嘴で首飾りを咥えて窓から飛んでいってしまった。
去り際に虚をつかれたクンは、頬が赤く染まり、まんざらでもない様子であった。
「それでは朝飯を済ませて、買い物に行くとするか!」
買い物を済ませ、荷物を馬車に積み込んだ。かなりの量を買い込んだが、リアの話によると、まだまだ馬車の積載量には余裕があるらしい。一体、この馬車にはどれだけの荷物を積むことができるのだろうか?
時間はいつの間にか正午前になっていた。
「このままでは約束の時間に遅れてしまうぞ!」
「仕様がないのう! みんな走るんじゃ!」
「皆様お待ちください。昨日使われたという、地下水路を進まれてはいかがでしょうか?」
「なるほど! それなら歩いてでも間に合いそうね!」
勇者たちは地下水路を使い、『星三つ』へ向かった。上の道では大きく回り道をしなくてはならなかったが、地下水路は一直線で繋がっていたのだった。
地下水路から梯子を登り、地上に出る。
「どっこいせっと! ……ギリギリ時間に間に合ったようじゃのう!」
「丁度正午といった所みたいね!」
イザベルは空を見上げて、太陽がほぼ真上に来ているのを確認しながらそう言った。
「あら? 裏口の前に人が立っておられますね。大工さんでしょうか?」
裏口の前には、頭に茶色い帽子と鉢金、左肩や足首にだけ鎧のようなものを着けた、全身茶色っぽい服の男が、ハンマーを背負って立っていた。
「隊長ー! ジャクリーヌ隊長ー! 急いでくださーい!」
「なんか、大工さんが呼んでるよ! ……あれ? あの人エルターさんじゃない?」
そこにいたのは、近衛騎士団隊員のエルターであった。
「なんだエルター、その格好は? 大工の真似事か?」
「一応『星三つ』は改装中ということになってますから……それはどうでもいいんです! 早く中へお入りください! もうすぐ正午になってしまいますよ! 隊長たちが遅れると、何故か自分がゲオルゲ副隊長に怒られるのですから!」
エルターに、よくわからない理由で急かされて、裏口から店の中に入る。
「いらっしゃいませ。本日はようこそおいでくださいました」
中に入ると、昨日厨房の前で会った支配人のヴェラと配膳係のアンナが、頭を下げて出迎えをしてくれた。
「それでは、どうぞこちらへ」
ヴェラの案内で奥に進むと、客席に続く大扉の前に同じ顔の人物が2人並んで立っていた。
「お前たち時間通りだな! 王がすでにお待ちになっている! 入るがよい!」
「今日は俺も厨房に入ってるんだ! 旨いものをつくったからジャンジャン食ってくれよ!」
それは鎧を着たゲオルゲと、コック服を着たゲルベルガだった。
2人は息の合ったピッタリのタイミングで、大扉を左右に開いた。
「よく来たな、お前たち! 早く席に座れ! 折角の料理が冷めてしまうからな!」
長いテーブルには豪華な料理がたくさん並べられ、一番奥の席には国王のパウル、その横に王女エバ、その向かいに灰色スーツと深緑色のマントを纏った、気品ある男が座っていた。
「今の儂は国王ではなくただのパウル、王女はただのエバだ! エバ、お前もそれで構わんな?」
「ええ、お父様の仰る通りに」
エバの隣に、ジャクリーヌ、イザベル、リア。気品ある男に隣に、シモン、勇者と座る。
「よし! それでは始めてくれ!」
パウルが合図すると、支配人のヴェラと配膳係のアンナ、それと他の配膳係も加わりグラスに飲み物を注いで回った。エバ、勇者、リアは葡萄ジュース、他の全員は葡萄酒が注がれた。
ちなみに、勇者は13歳、エバとリアは19歳で、2人はなんと年齢だけでなく、誕生日まで同じであった。
「お前たちの働きで、王都が10年間抱え続けていた問題を、一気に解決することができた! そしてこの『星三つ』も今日から新たに生まれ変わる! それを祝して、乾杯!」
『乾杯!』
パウルの号令とともに祝いの宴が始まった。
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