第38話 王都リットベルガー3
「わあ! 地下水路なのに明るいんだね! ボク、真っ暗だと思ってたよ!」
地下水路に侵入した勇者たち。勇者はその明るさに驚いている。
「そうだろう! 王都の地下水路は世界一! と言われるくらいに整備されているんだ!」
大きく胸を張って話すジャクリーヌ。近衛騎士団隊長としても、鼻が高いのだろう。
「あたしも驚いたわ。もっと臭いのを想像してたんだもの」
「本当じゃのう。どういう技術なんじゃろか? 早くリアを助けて、解説をしてもらわなければのう!」
シモンの言葉に、勇者たちは顔を合わせ、大きく頷く。
「ニコラちゃん、針の向きはどう?」
「北を向いたまま、変わらないよ!」
針の向きはそのまま変わらず、地下水路をしばらく北に進む。
「あれっ? 針の震えが大きくなってきたよ!」
「ということは、リアが近くにおるのじゃな!」
「敵もいるはずだ! 警戒を怠るなよ!」
4人は背中を合わせるようにして、全方向に気をつけながら進む。クンも、襟巻きの中で、聴覚と嗅覚を、目一杯研ぎ澄ませているようだ。
「たぶん、この壁の向こうっぽいけど、入口が見当たらないね!」
「クンよ! お主なら、壁の向こうの気配も察知できぬか?」
「普通の厚さの壁なら、わかるけど、この壁、全くわからないよ!」
クンは前足で、壁をノックしながらそう言った。
「この壁、かなり分厚いってことね! 他の壁よりもきれいだし、新たに継ぎ足されているんじゃないかしら?」
とりあえず、壁を一周回ってみたが、やはり、入口は見当たらなかった。
「これじゃあ、どうしようもないな! 一旦、戻るか?」
「せめて、上に出られたらいいんじゃがのう!」
上の方を見回してみるが、出口のようなものは見当たらない。
「あったよ! 出口!」
「どこじゃ?」
勇者が出口を見つけたようだ。しかし、そのようなものはあるように見えない。
「ニコラちゃん! こんな時に冗談とはいただけないのう!」
「違うよ! 真下からしか見えない出口なんだよ!」
勇者の言っている言葉の意味がわからないまま、とりあえずその場所に全員が向う。
「なんじゃこれは!」
「どういう仕組なんだ?」
「すごいわね、これ!」
そこには、天井に穴が空いており、その壁に梯子がついていた。
「これ、魔力は感じないから、幻術でもなさそうね。一体なにかしら?」
「ボクの世界にね、トリックアートっていう平面を立体みせたりする絵があるんだ! それに似ている気がするよ!」
「なるほどな! 絵の技術と、光る塗料の組み合わせといったところだな!」
不思議な絵を見ながら梯子を登り、地上に出る。
「どっこいせっと! ……ここはどこかのう?」
「この建物って……そうよね! ジャクリーヌ!」
「ああ、これは商業二大巨頭の1つ『星三つ』の建物だ!」
なんと、リアがいると思われる場所の真上に、商業二大巨頭の1つである、高級レストラン『星三つ』があった。
「ねえ! あそこに扉があるよ!」
「あれは、たぶん従業員用の出入り口じゃ! じゃが、本当にリアがこの中におるのじゃろうか?」
シモンの頭の中では、王女誘拐と高級レストラン『星三つ』が、全く結びついていないようだ。
「いや、リアはあの中だ! まだ詳しくは話せないが、王女様は『星三つ』に事件の首謀者がいると断定されていた」
ここへの出発前に、王女がジャクリーヌに話していたのは、このことだったのであろう。
「そうとわかれば、あたしたちは、中に進むだけね!」
イザベルは、従業員用の出入り口と思われる扉に手を触れた。バチッ!
「きゃっ! なにこの扉! バチッっときたわ!」
「これは、魔法の扉のようだな! 開く方法がわからんぞ! どうする?」
リアがすぐ近くにいるとわかっているのに、進むことができず、余計に焦ってしまう。
シモンは、なにかを思い出そうと、頭をグリグリしている。
「こういう時こそ、冷静に考えなきゃね! 魔法の扉を開けるパターンは、限られた人物、合言葉、特殊な鍵、だいたいこの3つが多いわね!」
「そのどれかだとしても、結局はわからないではないか!」
ジャクリーヌは、かえって焦りが増してしまった。
「そうじゃ! 合言葉じゃよ!」
「おじいちゃん、なにか思い出したの?」
シモンはイザベルの言葉から、なにかを思い出したようだ。
「シイバの村で、料理長と話したときに言っておったんじゃ! 『星三つ』の裏口が、改装で新しく変わり、魔法の扉になると。そして、鍵となる合言葉は、自分の名前で恥ずかしいと言っておったんじゃ!」
シモンはそう言いながら、魔法の扉の前に進んだ。
「トビアス・ケプファー!」
シモンの言葉に反応し、扉は輝きだした。トビアス・ケプファー、それが料理長の名前ということだろう。
「おじいちゃん! 合言葉、間違えたんじゃないの? ここまで輝くのは異常だわ!」
「いいや、問題ないはずじゃ! きっと、魔法の扉が何重かに重ねられておるんじゃよ!」
「それは、とても厳重だな! ますます怪しいぞ!」
しばらくすると光が消え、扉も消えていた。
「よし! 入るぞい!」
「とうとうワタシも、夢にまで見た、一流レストランに入ることができるのだな!」
ジャクリーヌは、期待に胸を膨らませながら、高級レストラン『星三つ』に入った。
「なんだと! 全然高級ではないぞ! どういうことだ?」
思い描いていた、一流店の様子とは違い、普通の内装に、戸惑うジャクリーヌ。
「客に見える部分は高級でも、裏の部分はこんなものよ!」
「くっ! ワタシの夢は正面扉から入らねば、かなわないものなのか! ……んっ! なんだこの、旨そうな匂いは!」
ジャクリーヌはいい匂いに釣られて、フラフラと奥へ向かっていく。
「ジャクリーヌよ! ワシらは、遊んでおる時間などないのじゃぞ!」
シモンの声が聞こえなかったのか、ジャクリーヌは正面に見える大扉の手前の角を、曲がって行ってしまった。
「全く、食いしん坊なヤツじゃ! 仕様がない、ワシらも行くぞい!」
ジャクリーヌを追い、角を曲がる。
「わあ! すごい料理の数! ここは厨房だったのね!」
そこは、厨房でできた料理を受取るカウンターになっており、高級な料理が並んでいた。中では、料理人たちが、せっせと働いている。
「もぐもぐ……これが高級レストランの味か! どれ、こちっも、もぐもぐ……」
「ジャクリーヌ! つまみ食いなんかして! あなただけズルいわよ! もぐもぐ……」
「お主ら! なにをやっておる! 見つかったら追い出されてしまうぞい!」
勇者が懐からマイ箸を取り出し、つまみ食いして減った部分を、盛りつけ直して隠す。ついでに、つまみ食いもしている。
「ナイスプレーじゃ、ニコラちゃん! それならバレんぞい!」
「ここの料理って本当に美味しいですよね! 私もつまみ食いしたいんですけど、支配人のヴェラさんに見つかっちゃうと大変だから、できないんですよねー!」
なんと、配膳係らしき女性がいつの間にか、勇者たちの後に立っていた。
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