第35話 ノルトハイム平原6
「それでは皆様、これから、重要な話をいたしますので、しばらくの間、冗談などはご遠慮いただきたく存じます」
にこやかだったリアの顔が、フッととても真剣なものへと変わった。
「部屋に入られる前に、必ずスイッチを下にしていただくよう、お願いしました。その理由をお話させてもらいます」
いつものリアより、声のトーンが低く、緊張感に包まれる。
「あらゆる生物が、時間の流れが異なる場所に存在することは、許されることではありません。それは、神様の意志に背いたことと、同じだからです。その行いをした者には、『能力を奪われる』、『別の生き物に変えられる』、そのような罰が与えられます」
話を聞いていた全員が、ブルっと震えた。クンの尻尾は、話が進むにつれ、どんどん大きく毛羽立った。なにか、身に覚えでもあるのだろうか?
「……あくまで、言い伝えでございますが」
リアは、意味ありげな間をとったあとにそう言った。
「ちょっと待つがよい! その話は真実じゃ!」
「どういうことだ? 罰を受けた者を、知っているとでもいうのか?」
「知っておる! ここにおる、全員ものう!」
シモンの言葉の意味がわからず、全員が首をひねる。
「ニコラちゃんじゃよ!」
シモンの言葉に、驚きのあまり言葉が出てこない。
「ニコラちゃんは、召喚の儀式により、異世界からやってきた。つまり、時空を越えてきたのじゃ! だから、声を発することができんのじゃよ!」
「なるほどな! それが神様から受けた罰ってことだな!」
「だけど、クンがいたから、その罰を帳消しにすることができたわけよね!」
「結果的には、そういうことになるのう!」
「それじゃあ、クンを胴上げよ!」
『わっしょい! わっしょい! わっしょい!』
クンは胴上げされ、いつもの賑やかな雰囲気に戻った。
「ニコラちゃん、新しくなった装備を試してみてはどうだ?」
「うん! やる!」
勇者たちは、新装備を試すため、馬車の外に出た。
「それでは、ニコラちゃん師匠。そこから全力で、ここまで走ってきてください」
「うん! わかった! ……エンダーン!」
勇者は新装備を装着した。
「リアよ! 何故ニコラちゃんを走らせるんじゃ? 普通、剣を振ったりするのではないのかの?」
「見ていただけば、すぐにわかると思いますよ」
「それじゃあ、いくよ! よーい、ドン!」
勇者が物凄い勢いでこちらにやってくる。そして……
「ぬわー! なんじゃこの風圧は!?」
「きゃー!」
「なによこれ!」
物凄い風が起こり、リアとイザベルは吹き飛ばされてしまった。シモンは、隣りにいたジャクリーヌに咄嗟につかまり、なんとか耐えたようだ。
「じじい! どこにつかまっている!」
「仕様がないじゃろ! 緊急事態だったのじゃから!」
シモンは、鎧の上からといえ、ジャクリーヌのお尻に抱きつくようにつかまっていた。
「こんのエロジジイが! さっさと離れろ!」
「それが駄目なのじゃ! ワシの手が、ピッタリお主の尻に吸い付いて、離れんのじゃよ! きっと、魔石の力に違いないわい!」
肘でグリグリとシモンを剥がそうとする、ジャクリーヌ。鼻の下がどんどん伸びていく、シモン。
「おじいちゃん! エロい事はそのくらいにしておきなさい! 今は、ニコラちゃんの新装備の話が大事でしょ!」
「そじゃの!」
シモンは、イザベルの言う事を素直に受け入れ、ジャクリーヌから手を離した。
「じじい! 魔石の力などと嘘をついていたな! 一発ぶん殴ってやる!」
「ジャクリーヌ! 今は新装備の話って言ったでしょ!」
「そうじゃぞ! お主の尻の話をしておる場合ではないのう!」
「ジャクリーヌ様。大事なお話の最中でございますよ」
何故か、被害者であるジャクリーヌが責められ、シモンによる抱きつき事件は有耶無耶にされた。
「今の風は、なんじゃったのじゃ?」
「はい。今回取り付けた魔石が、風属性であったということでございます」
5つの魔石には、それぞれ、風・火・土・雷・水の属性があり、今回取り付けた魔石は風属性であった。その魔石の力により、攻撃・防御・移動など、様々な面で風の力が付与されているらしい。
「私、鎧に刻印を入れる夢を見た時に、そのようなお告げを受けていたようなのですが、この魔石を手に入れるまでは、思い出すことができませんでした」
「お告げというものは、そういうものなのかもしれないわね! きっと、新しい魔石を見つければ、やるべきことも見えてくるんじゃないかしら?」
この旅における、リアの重要性を再認識する。
「ワタシたちが、しっかりリアを守らなければいけないな!」
「ゴブリン部族の森みたいに、リアが敵の手に渡るなんてことが、ないようにしなきゃね!」
「まあ、あれは味方だったんじゃがのう!」
「ボクがリアを守る!」
リアは、目頭を押さえている。勇者の言葉がとどめだったようだ。
「リア、他に思い出したことはないのか?」
「はい。今回開放された力は、ほんの僅かなものであるということだけ、思い出すことができました」
「さっきので、ほんの僅かなのか? 完全になったときの力が、全く想像できないな!」
5つの魔石の力のすごさを、改めて感じる、ジャクリーヌ。
「なるほどね! きっと、5つの魔石全てを手に入れたあと、力を開放する方法をリアが思い出すってことじゃないかしら?」
イザベルの言葉で、この旅の全体像が見えてきたようだ。
「魔石の属性もわかったことですし、私は、首飾りをつけることにいたしましょう」
「へえ! キレイな魔石のついた首飾りねえ! ……って、それ鎧にはめ込んだ魔石じゃないの?」
「鎧にはめ込んで、なくなってしもうたわけじゃないのかの?」
リアのつけた首飾りには、風の魔石とまったく同じ見た目の石がついていた。
「これは、魔石の抜け殻なのでございます。通常の魔石は、はめ込んだりすると、その石ごとはまりますが、5つの魔石は、中のエネルギーのみはまり、キレイな抜け殻が残ったのでございます」
「それで、キレイな石集めが趣味のリアが、首飾りにしてつけた、というわけね!」
「まあ、その石は、魔力のないただのキレイな石じゃ! リアが身につけておっても問題ないじゃろうて!」
リアは魔石の抜け殻の首飾りを装備した。
「それでは、ニコラちゃん師匠。探求の羅針盤で、次の魔石の場所を探しましょう」
「うん! わかった!」
勇者は懐から探求の羅針盤をだし、蓋の出っ張りを押した。
「針が南を指しているよ!」
「ニコラちゃん師匠、私にも見せていただいてよろしいでしょうか?」
リアが、勇者が手に持つ、探求の羅針盤を見る。
「針が震えていませんね。魔石まではまだ距離がありそうです」
探求の羅針盤の針は、魔石が近くにあるとプルプル震え、距離が近づく度にその震えが大きくなるとのことだった。
「ということは、次の目的地は、王都方面ね!」
「次の魔石の場所が、王都にしろ、その先にしろ、一旦物資の補充をしておくべきだな!」
「そじゃの! 折角倉庫を手に入れた所じゃからのう!」
次の目的地は、王都リットベルガーに決定した。
「イザベル! ここはお前の出番だな!」
イザベルが前に出る。
「それじゃあ! 王都で物資を補充して、次の魔石を手に入れるぞー! えいえいおー!!」
『えいえいおー!!』
勇者たちは、王都リットベルガーへと向かっていった。
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