第34話 ノルトハイム平原5
「それでは、本日最後の部屋に移りますね」
にこやかだったリアの顔が、フッと少し真面目なものへと変わった。
「皆様、これから部屋に入りますが、ここをご覧くださいませ」
リアは、ボタンやツマミの並ぶパネルを、手のひらで示した。
「見ての通り、ツマミで6つの部屋を切り替え、それそれのボタンで、扉を出現させることができます。そして、ボタンの上のスイッチ。これが非常に重要なものとなります」
6つのボタンの上に並ぶ、6つのスイッチは、1つだけ上を向いていた。
「このスイッチは必ず、下に向けてからボタンを押すようにしてください。皆様、よろしいですね」
4人と1匹は、リアの妙な威圧感に押され、無言で頷く。
「でしたら、ご案内しますね」
いつもの優しいリアに戻った。
スイッチを下に向けてからボタンが押す。そして、扉が開かれる。
「これは! あたしが昨日見た、青白い不思議な部屋じゃない!」
「あそこに、ボクの装備があるよ!」
部屋の奥には、勇者の装備が置いてあった。それに、近づいていく。
「ニコラちゃん師匠、探求の羅針盤をつかっていただいてよろしいですか?」
「うん! わかった!」
勇者は懐から探求の羅針盤をだし、蓋の出っ張りを押した。
「あれ? 鎧を指さずに、クルクル回ってるよ!」
「どういうことじゃ? 探求の羅針盤が可怪しくなったのかのう?」
リアに鋭い視線が集中する。
「違いますよ! 魔石の定着が、無事に完了したのです!」
リアは、魔石のついた胸当てを掲げていた。
「リアよ! どういうことじゃ? 魔石を定着させるには、6ヶ月かかると言っておったではないか! たった一晩で定着することなど、あるわけなかろうて!」
「もしくは、リアが嘘を言っていた、ということではないのか?」
「ジャクリーヌ! リアはそんな嘘、言わないよ!」
勇者は、ジャクリーヌの目をじっと見ながらそう言った。
「話の流れから、つい口に出てしまっただけだ。リア、嫌な思いをさせたのなら、申し訳ない」
リアに向かって、頭を下げるジャクリーヌ。
「いいえ、なにも問題ありませんよ。一晩で、6ヶ月経過するなんて、実際には起こり得ないようなことですからね」
「ちょっと待って! リア! 今、あなたが言ったことが、実際に起こったということなの?」
イザベルは、目をパチクリとさせながらそう言った。
「はい。先程、探求の羅針盤の針がクルクル回っていたのが、なによりの証拠なのです」
針が回っていたのは、空間魔法を応用してつくられた部屋であったため、外の魔石を探知することはできても、位置の特定ができていなかったためらしい。
「さすが、鍛冶師の村じゃ! 一晩で6ヶ月経過とはのう!」
「いいえ、元は一晩で1ヶ月経過だったのですが、私が改良して、6ヶ月経過にいたしました」
村での馬車の製作に、1ヶ月携わって以来、リアは時の経過を早める研究をしていたらしい。あるとき、鉱石が時の経過に大きく関わっていることに気づき、キレイな石集めに、より力を入れるようになったということだった。
「ワシはもう、リアがなにをやっても驚かんことにするわい!」
「あたしもそうするわ! 毎回、驚きの次元が高すぎて、寿命が縮まってしまいそうだしね!」
「リアだから仕方がない! そういうことだな!」
リアの父、ヴァイスが言った『計り知れない才能』という言葉の意味を、心の奥底から感じる、シモン、イザベル、ジャクリーヌ。
「リアは凄すぎるんだね! 偉い偉い!」
勇者は、リアの頭をなでなでした。
「ニコラちゃん師匠。皆様の前で、お恥ずかしい」
そう言いつつ、リアはとても嬉しそうだ。
「それでは皆様、パネルを見ながら、全体の説明をいたしますね」
「エンダーン!」
勇者は装備を仕舞い、みんなにつづいて部屋を出る。
「パネルのボタンは、左から、冷蔵・冷凍・乾燥・熟成・鍛冶・生活、となっております」
ボタンの下には、いつの間にか、部屋の名前が彫られた金属プレートがはめられていた。
「リア、なんで熟成なんだ? 魔石の定着のための部屋なのだから、定着でよいのではないか?」
「ジャクリーヌ様、それには意味があるのでございます。昨晩、夕食の準備をしておりましたときに、ニコラちゃん師匠が、ミソとショウユの話をなさいました。それらをつくるとき、様々な材料も必要であるが、最も必要なのが、熟成期間だと申されました。ですのでその部屋は、熟成用の部屋であり、魔石の定着はおまけにすぎないのでございます」
「なるほどな! それならば納得だな!」
「ジャクリーヌ。そこは突っ込むところじゃないの?」
めずらしく、勇者が突っ込み役にでる。
「ニコラちゃん、なにを言っているんだ! ミソとショウユがあれば、ニコラちゃんの母国の料理が食べられるのだろう? これ以上に大事なことなど、他にあるものか! な! じじい!」
「もちろんそうじゃ! のう! イザベル!」
「そのついでに、魔王を倒す感じかしらね!」
きっと冗談で言っているのだろう。しかし、本気に見えなくもない。
「次は、ボタンの上のスイッチについて、説明いたしますね」
「話の流れからすると、時間経過のスイッチじゃないかしら?」
「イザベル様、その通りです。必ず、熟成の部屋に入られる際は、スイッチを下にしてからにしてくださいね」
スイッチの部分を強調して、リアは話した。
「他の部屋のスイッチは、どうなっておるんじゃ? 間違って冷蔵の部屋のスイッチを入れてしまったら、食材が全部駄目になってしまうのかの?」
シモンは、全てのスイッチが、同じものであるかどうかを確認しているようだ。
「はい。まず、鍛冶と生活の部屋は、この機能を使う必要がないので、スイッチ自体が動きません。冷蔵と冷凍、そして、乾燥の部屋は、スイッチを入れると、時の流れが半分になります」
「時の流れが半分じゃと! それはすごいのう!」
「つまり、これまでの2倍の期間、保存できるということね!」
シモンとイザベルが、ハイタッチをして喜ぶ。
「やはりこれも、リアが手を加えたのか?」
「いえ、時間の加速に関しては、可能でしたが、減速に関しては、元々の半減以上の方法を、見つけ出すことができませんでした」
リアは、とても悔しそうに話した。
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