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第33話 ノルトハイム平原4

「おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう!」


 ぺちぺちぺちぺちぺち、クンが自慢(じまん)肉球(にくきゅう)で5人の(ほお)をたたく。これが、勇者パーティーの正しい朝の迎え方である。


「皆様、おはようございます。朝食を食べて後、馬車の機能パート2を発表いたしますので、ご期待の上、お待ちくださいね」


 リアはそう言うと、勇者を連れて厨房(ちゅうぼう)へと向かっていった。


「リアは、朝から元気じゃのう! この寝坊助(ねぼすけ)戦士と違ってのう!」

「……朝飯を……しっかり……とらない……と……力が……」

「もう! ジャクリーヌは相変わらず朝弱いわね!」


 シモンとイザベルは、ジャクリーヌを背負って、馬車の外に出た。


「うひょ! この時期でも、朝は結構(けっこう)冷えるものじゃのう!」

「馬車の中が、温かいから、余計(よけい)にそう感じちゃうのかもね!」

「!? なんだ! この寒さは!」


 ジャクリーヌが寒さで目を覚ました。


「ジャクリーヌ! 起きたのう! 朝食の支度(したく)をするぞい!」


 シモンたちは、()き火に火をつけ、昨夜つかった丸太(まるた)のテーブルを、キレイに拭き上げ整える。


「できたよ! どうぞ召し上がれ!」

「朝食は、ニコラちゃん師匠監修(かんしゅう)の元、(わたくし)がつくりましたよ」


 丸太(まるた)を縦に割ったテーブルの上に、緑色のベーグルに、黒いつぶつぶがサンドされたものと、白いドリンクが置かれる。


「……それでは、手をあわせてください!……いただきます!!」

「いただきます!!」


 シモンの号令(ごうれい)につづき、いただきますの合唱(がっしょう)をしたあと、さっそく、皿に手を伸ばす。


「このパンは、昨晩も食べたベーグルだな! 昨晩のものとは色が違うようだが、どれどれ……この緑色は抹茶(まっちゃ)か! いい苦味があって旨いな!」

「昨晩のベーグルはプレーンでしたが、今回は抹茶(まっちゃ)を練り込んであります。様々なものを練り込んで、色んな味のベーグルをつくる研究。(わたくし)の次の課題ですね」


 とても楽しそうに話すリア。本当に料理研究が大好きなのだろう。


「ベーグルにサンドされとるのは、粒あんじゃのう! 抹茶(まっちゃ)の苦味と、粒あんの甘み! これは最強のコンビじゃな!」

「粒あんは、昨夜ニコラちゃん師匠から教わって製作(せいさく)した、圧力鍋(あつりょくなべ)でつくりました。まさか、あんな短時間であんこがつくれるとは! 圧力鍋(あつりょくなべ)すごいですね!」


 一体いつの間に、リアは圧力鍋(あつりょくなべ)をつくったのだろうか?


「この白いドリンクは、(さわ)やかでさっぱりしていて、とっても美味しいわね!」

「それは、昨夜クリームチーズをつくったときに残った、ホエーを牛乳と混ぜたものなんですよ。ホエーにこんな使い道があったとは、驚きです!」

「ちょっと待って、リア! ホエーって、まだ残ってるの?」


 イザベルは期待の眼差(まなざ)しで、リアに(たず)ねた。


「まだ残っていますが、どうかしたのですか?」

「それは良かったわ! ホエーはね、ポーションをつくるときに加えると、回復効果がグーンとあがるのよ!」

「ホエーにはまだ、そんな使い道もあるのですね。イザベル様、よろしければ、ホエーをつかったポーションをつくられる際には、(わたくし)もご一緒させていただいてよろしいでしょうか?」

「別にいいけど、料理とは関係ないわよ」

「いいえ、そこにきっと、なにかのヒントがあるはずなのです」


 料理研究に対する、リアの熱量(ねつりょう)(はか)り知れない。イザベルは、そう思っているようだった。



「それでは、朝食も済みましたので、馬車の機能パート2をご紹介させていただきます。さあ皆様、馬車の中へ」


 リアにつづき、馬車の中へと入っていく。


「昨日、2つの部屋と、もう1つの部屋をちらりとお見せしました」

「あたしが見た、青白い不思議(ふしぎ)な部屋のことね!」

「はい。そのような部屋があと3つ。つまり、6つの部屋があるのでございます。(わたくし)が皆様の話を聞いて、各部屋の設定をいたしましたので、順番にご案内しますね」

「部屋の設定じゃと? どういうことじゃ?」


 リア以外の4人と1匹は、話についていけず、ポカンとしている。リアは、それを気にもとめず、ツマミを切り替え、ボタンを押す。


「それでは、本日1つ目の部屋でございます」


 リアは、現れた部屋の扉を開き、中に入る。4人と1匹も、とりあえずつづく。


「寒っ! なんだこの部屋の寒さは!」

「リアよ! これはもしや、冷気の付与(ふよ)かのう?」

「シモン様、その通りです。この部屋は、食材保管用の冷気の倉庫でございます」

「ということは、ワシのカバンの中身は、ここに置いてもよいのじゃな?」

「どうぞ、好きなだけ置いてくださいませ」


 シモンは、鼻歌を歌いながらごきげんな様子で、魔法のカバンの中身を、全部出し切った。


「おお! なんと晴れやかな気持ちじゃ! 今までは、カバンの残量が減る(たび)に、不安になっておったが、まさか、カバンが空になって、こんな気持になれる日がやってくるとはのう!」


 手を組んで神にでも祈るように、リアを見つめるシモン。


「この部屋、他の部屋に(くら)べると、(せま)くて薄暗(うすぐら)いな」

「それは、順次立てて説明したほうがよろしいでしょうね。まずは……」


 リアの説明によると、6つの部屋はそれぞれが独立したものではなく、1つの大きな空間を6つに分けたものであるらしい。その中で、倉庫に設定した部屋は、置いてある物資(ぶっし)の量によって、部屋の大きさが変わるとのことだった。部屋の大きさを最低限にしているのは、冷気の付与(ふよ)による魔力の無駄(むだ)消費(しょうひ)を抑えるためであったのだ。


「なるほどのう! それで魔力の供給源(きょうきゅうげん)はなんなのかのう? もしや、ワシらから魔力が吸い取られておったりせんじゃろな?」

「それには心配(およ)びません。馬車が動くことにより、魔力が生まれ、(たくわ)えることができるようになっておりますゆえ」


 リアによると、馬車の魔力は、余程(よほど)無理をさせない限り、あと5年は持つらしい。しかし、定期的に馬車を動かさないと、魔力を(たくわ)える部分が劣化(れっか)してしまうとのことだった。


「ねえ、馬車の中が快適(かいてき)なのも、魔力で温度設定がされているからなの?」

「それは少し違いますね。馬車の中は(たくわ)えられた魔力で、()(あふ)れておりますので、快適(かいてき)(たも)たれているのでございます」

「なるほど! そういうことだったのね!」


 イザベルは、ポンッと手を叩いた。


「なにかわかったのか? イザベル?」

「あたしね、タブちゃんの魔力補充(ほじゅう)のこと、すっかり忘れていたのよ! でも、青龍(せいりゅう)様の(ほこら)の前で、ちゃんとタブちゃん動いたでしょ! なんでかなって、ずっと思ってたのよ!」


 タブレットのタブちゃんは、3日に1回、手をかざしてゆっくり魔力を注いで補充(ほじゅう)する必要があったのだが、イザベルはそれを忘れていたのだった。


「つまり、タブちゃんには、()(あふ)れた魔力が注がれていたわけだな!」


 冷気の部屋を出て、次の部屋へとツマミを切り替え、ボタンを押すリア。


「それでは、本日2つ目の部屋でございます」


 リアは、現れた部屋の扉を開く。


「うっわ超寒っ! 部屋に入る前から、とても寒いぞ! なんだこの部屋は?」

「はい。この部屋は、(こお)らせたものを保存する倉庫でございます」

(こお)らせたものじゃと! お主のカバンと同じ付与(ふよ)の部屋を、つくったということかの? これはすごい技術じゃのう!」


 鍛冶師の村の技術理力の高さに、(あらた)めて驚かせれるシモン。


「次は、絶対あたしの乾燥付与(ふよ)の部屋だと思ったのに……がっかりだわ……」


 期待していた乾燥付与(ふよ)の部屋ではないとわかり、落ち込むイザベル。


「ここには、(わたくし)燻製(くんせい)肉はもちろん、生魚(なまざかな)生肉(なまにく)の保存、さらに……」

「ボクのつくった料理を、焼いたりする前の状態で保存できるんだよ!」


 リアの前振りのあとに、勇者がつづけて発表した。


「なんだと! それは、ニコラちゃんの料理が、これまで以上にお手軽に食べられるということだな!」

「それは最高じゃのう!」


 ジャクリーヌとシモンが、万歳(ばんざい)をしながら喜んでいる。イザベルはまだ、落ち込んだままのようだ。


「それでは、本日3つ目の部屋に移りますね」


 リアが、現れた部屋の扉を開くと……


「!? ここは、もしかして!」

「そうです。イザベル様お待ちかねの、乾燥付与(ふよ)の部屋でございます」

「あたしのー! あたしの部屋がー!」


 イザベルは、感動のあまり泣き叫びながらも、しっかりと、魔法のカバンの中身を出している。


「ありがとう、リア! これで新しい薬草の研究が(はかど)るわ!」


 イザベルは、リアの手を(つか)み、ブンブンと何度も手を振った。

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