第31話 ノルトハイム平原2
なんと、馬車は王女に依頼されて、鍛冶師の村で特別につくられたものであった。
「リアよ、お主もこの馬車の制作に、関わっておったということかの?」
「少しの間だけですが、手伝わせていただきました。製作期間5年の内の、最後の1ヶ月だけでございますが」
1ヶ月だとしても、王女から特別に依頼されたものの製作に関わっていたのだ。鍛冶師の村の中で、かなりの腕だと認められていたのであろう。
「なるほどのう! 鍛冶師の村で、5年もかけてつくったものじゃから、空間魔法を用いて、ベッドを増やすようなまねができるのじゃな!」
「こんなすごいものを、あたしたちにくれるなんて、王女様にはいくらお礼を言っても足りないわね!」
王都の方角を向いて、感謝の言葉を口にする、イザベル。ジャクリーヌは、敬礼までしていた。
「皆様、ベッドの機能は、まだまだ序の口なのですよ。これからご覧にいれるのが、この馬車の最たる機能なのでございます」
リアは、馬車の後ろ側の壁の、胸あたりの高さの部分を押した。
パカッ、そこは蓋になっており、中にはボタンやツマミのようなものがいくつかあった。
「まずは、これからみていただきましょうか」
リアは、ボタンの1つを押した。すると……
「!? なんだと! 扉が急に現れたぞ!」
「どういうことじゃ?」
「さあ、私につづいて、お入りくださいませ」
ボタンのある蓋の横に、突然現れた扉に驚いていると、リアは、その扉を開いたまま、中に入っていった。恐る恐る、残された4人と1匹もつづく。
「なんと! ここは鍛冶場ではないか!」
「その通りです。ここは、この馬車に搭載された、鍛冶場なのでございます」
「なるほどね! ここで、魔石を鎧にはめ込む作業が、できるというわけね!」
「これで、問題の1つは解決ですね。それでは、次の部屋にご案内しますので、1度この部屋を出ましょう」
理由はよくわからないが、とりあえず、リアにつづいて鍛冶場から出る。
「この機能には、かなり複雑な空間魔法を応用しておりますので、別の部屋に移るためには、1度外に出なければならないのでございます」
リアは、そう言いながら、ツマミを切り替えてボタンを押した。ツマミを切り替えた時点で、扉は消失し、ボタンを押すと、新たな扉が現れた。
「それでは、参りましょうか」
リアにつづいて、扉の部屋に入っていく。
「うわー! ここは厨房なんだね!」
「はい。ここは鍛冶師の村の技術を結集させた、厨房でございます。火力調整付きのかまどに、温度調整をできるオーブンもございます」
「これで、つくれる料理の幅がグーンと広がりそうだよ!」
勇者は両手を大きく広げながら、嬉しそうに話した。
「なんじゃと! それは楽しみじゃのう! ジュルリ」
「今晩は、さぞかしすごい料理が登場するのね! ジュルリ」
「さらなる、美味がワタシを待っているのか! ジュルリ」
シモン、イザベル、ジャクリーヌはよだれを垂らす。勇者は嬉しそうに、厨房の隅々まで見回っている。
「ジャクリーヌ! 調理器具や食器の収納場所があるよ!」
「なんだと! リア、ワタシのカバンの中身を、ここに置いていいのか?」
「どうぞ。ここはそのためにあるのですから」
ジャクリーヌは、魔法のカバンの中の、鍋や食器を全て収納場所に移した。
「これで、ワタシのカバンには、好きなものを入れることができるぞ! まずは、ゲルベルガの店のおはぎを買い占めて、詰め込むとしよう!」
そう言いながらよだれを垂れ流す、ジャクリーヌ。
「いいなあ! あたしも薬草置き場があったらいいのになあ!」
「ワシも、食材置き場があればとは思うが、さすがに、冷気や乾燥の付与がある部屋など、あるわけがなかろうて」
ジャクリーヌを羨ましそうに見る、シモンとイザベル。
「あれ? 他にも部屋があるよ!」
「ニコラちゃん師匠。どうぞ、開けてみてください」
カチャリ、勇者が扉を開く。
「わーい! 大きなお風呂だ!」
そこには小さな脱衣所があり、その奥の硝子の引き戸を開けると、3つの洗い場がある、大きな風呂があった。
「ニコラちゃん師匠は、お風呂をご存知なんですね。あちらの世界では、さぞかし名のある家の出なのでしょうね」
「なんで? ボクの家、普通だよ!」
風呂を知っているだけで、名家の出であると思われていることに、疑問を感じる勇者。
「ニコラちゃん、こっちの世界では、お風呂は贅沢なモノなのよ! 王族のいるお城か、上級貴族の家にある位で、庶民は桶に水を入れて、身体を拭くってのが普通なのよ!」
「ワシものう、宮廷魔法師長の頃、城の風呂に入ることはあったが、月に1回だけじゃったぞ!」
勇者は2人の話を聞いても、ピンときていないようだ。当たり前だと思っていたものを、そうでないと言われてもよくわからない。そんな気持ちなのだろう。
「さらに、脱衣所の横の扉には、水洗トイレがございます」
「なんだと! 王族専用のトイレにだけあるという、あの伝説の水洗トイレが、その扉の向こうにあるというのか!」
「どうぞ、ご覧くださいませ」
リアが、トイレの扉を開く。
「これが伝説の、水洗トイレなんじゃな!」
「勝手に蓋が開いたわ! どうなってるの?」
「座って用を足すことができるのか!」
便器に群がる、シモン、イザベル、ジャクリーヌ。
「このトイレには、様々な機能がついております。まず、蓋の自動開閉、そして、用を足した後の洗浄と乾燥、さらに中の物は自動で流れていきます。消臭もいたしますので、匂いも気になりません」
リアの解説も一通り終わったようで、一旦扉の外に戻る。
「普段は、ツマミを厨房の部屋にしておきましょう。ただし、この部屋の機能は、馬車が止まっている間しか使用することができません。その点は、ご注意くださいね」
馬車の窓から外を見ると、いつの間にか、夕方になっていた。
「それでは、野営の準備をはじめるとするか!」
「テーブルや椅子にする、木や石を探さないとね!」
野営の準備のため、腕まくりをする。シモンとイザベル。
「皆様、中のテーブルでお食事をされないのですか?」
厨房に部屋には、6人掛けのテーブルと椅子があった。
「それでは、野営の醍醐味が味わえんじゃろう?」
「便利なのもいいが、不便だからこそ、感動も大きくなるものだからな!」
「中のテーブルは、特別な日につかうことにしましょう! そのほうが、楽しみがあっていいわ!」
シモン、イザベル、ジャクリーヌの3人は、野営の準備のため、馬車の外へと出ていった。
「ニコラちゃん師匠。私たちも、はじめるとしましょうか!」
「うん! はじめよよう、リア!」
勇者とリアは、今晩の食事の準備のため、厨房への扉を開いた。
一体2人は、どんな料理をつくるのだろうか?
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