第3話 シイバの村
勇者パーティーは、順調にモンスターを倒しつつ進んだ。そして、4日かけてビエルデ大樹海を東に抜けた。そこからさらに東へ半日ほど進み、シイバの村という小さな集落に到着した。
「よし、シイバの村に到着っと! なんとか日が暮れる前に着いたなあ、じじい!」
「そうじゃのう! 暗くなると盗賊どもが現れるからのう! ワシ、人同士の戦いはどうしても好きになれんのじゃよ……」
「あたしも嫌い! あれ、後味悪いよね!」
「そうだな! だいたい今は魔王軍との戦いで、人同士争っている場合じゃないんだがな!」
「おりょ? それより、ニコラちゃんはどこにいったんじゃ?」
「さっきまで一緒にいたわよ、その辺にいるんじゃない?」
3人が辺りを見回して勇者を探していると……ピコンッ!
「あっ! 久しぶりのタブちゃんだ! どれどれ……」
イザベルは背負っていた皮の鞄から、タブちゃんを取り出した。
「えーと……【初対面の人との対応について】だって」
「早く! 早く先を読んでくれ! イザベル!」
「勇者は極度の人見知りです。まわりに1人でも知らない人がいると、どこかに隠れてしまいます。村や町などの人が多い場所へは、なるべく向かわないほうがいいでしょう。 だって」
「なんだと! それじゃ、国王様との謁見なんて無理じゃないか! じじい、どうしたらいいんだ?」
「……!! そうじゃ! 説明の下に『すずめのお宿!』みたいなのがでておらんか? たしか、前もでておったことがあったじゃろう」
「それ『すずめのお宿!』じゃなくて『おすすめポイント!』ね! ……えーと……あった、あったわよ!」
イザベルは『おすすめポイント!』をタッチした。
「なになに……どうしても、勇者が知らない人と会わなければならない、そういった場面もあるでしょう。そういうときは、お供のものを勇者の体に密着させます。そうすることで、勇者は落ち着き、隠れずにとどまることができるでしょう。 だってさ」
「お供……というとクンのことだな! クンはどこにいる?」
「クンよ! 声が聞こえとるんじゃったら、ここにきてくれんかの!」
ガサガサ、少し離れたところの藪の中からクンが現れた。
「なにかよう?」
「とある理由で、ニコラちゃんに抱っこしてもらうよう、頼んでもらってもいいかのう?」
「わかった!」
そういうと、クンは先ほどでてきた藪の中に戻っていった。
しばらくすると、クンを抱っこした勇者が、同じ藪の中から現れた。
「これで、謁見の問題は解決! ということだな! じじい!」
「元のままじゃ、宿屋に泊まることすらできなかったわけじゃからのう!」
「村や町に入れないってのはそういうことよね……よかった、宿屋があるのに村の外で野営、なんてことがなくて……」
「そうだ、宿屋だ! さっそく宿屋にいってゆっくり休もう! たしか明日の朝は早いんだろう?」
「この村と王都を結ぶ馬車の始発便に乗るんじゃ! 出発は日の出の時間じゃよ!」
「はあー! 久しぶりにお湯で体が洗える! はあー! 久しぶりに準備しないで食事が食べれる!」
「イザベル、仕様がないヤツだなあ! まあ、ワタシも同じ気持ちだけどな!」
『わっはっは!』
その晩、勇者パーティーは村に1件だけの小さな宿屋に宿泊した。
「おはよう! ……おはよう! ……おはよう! ……おはよう!」
ぺちぺちぺちぺち、クンが自慢の肉球で4人の頬をたたく。これが、勇者パーティーの正しい朝の迎え方に、いつの間にかなっていた。
「よし! 急いで準備して馬車乗り場に行くぞい!」
「……朝飯を……しっかり……とらない……と……力が……」
「もう! ジャクリーヌは相変わらず朝弱いわね! 朝食は馬車の中でとれるように、宿屋のおばさんに頼んであるから、あとでね!」
ガチャリ、1番最初に準備を済ませ、部屋の扉を開く勇者。
「ニコラちゃんは朝強いわね! ほら、ジャクリーヌ、しっかり!」
「……ニコラちゃん……朝飯は……しっかり……力が……」
「だあーもう! こやつは駄目じゃ! イザベル! 一緒に担いでいくぞい!」
「まったく仕様がないわねえ! うんしょっと! ニコラちゃん、ジャクリーヌの剣と兜お願いしていい?」
勇者はこくりと頷くと、ジャクリーヌの両手剣と兜を抱えた。
「うんしょ! うんしょ!」
ズリズリ、ジャクリーヌを抱えるというより、引きずっていくシモンとイザベル。
ゴンゴン、階段を1段降りるたびに、引きずられるジャクリーヌから大きな音が鳴り響く。
ズルッ!
「あっ! しまった!」
ジャクリーヌを抱えるイザベルの手が滑って離れてしまった。
「ニコラちゃん! クン! 避けるんじゃ!」
ちょうど階段の下あたりにいた、勇者とクンに避難を促すシモン。
ドガガガガガガガガン!!! 凄まじい衝撃音ととも、階段を落ちていくジャクリーヌ。それをひらりとかわす、勇者とクン。
「ほう、ニコラちゃんもクンも無事じゃったか! よかったのう!」
「本当によかった! あたしのせいで誰も怪我しなくて!」
「だ・れ・が・誰も怪我してないだってー!!」
起き上がりながら怒りの声をあげるジャクリーヌ。
「あっ、ジャクリーヌ! しっかり目が覚めたのね! おはよう!」
「おはよう! この寝坊助戦士め!」
ジャクリーヌに朝の挨拶をするシモンとイザベル。それにあわせて、軽く手をあげる勇者と、軽く前足を上げるクン。
「……おはよう! ……じゃない! 階段から、突き落とされて起こされるとは、思ってもみなかったぞ!」
「それより、ジャクリーヌ! 急がないと馬車に乗り遅れちゃうわよ!」
「え? そ、そうなのか?」
「ワシが、朝食を受け取ってくるから、お前たちは、先に、馬車乗り場で待っておれ!」
「ニコラちゃん、クン行くわよ! もう! ジャクリーヌも急いで!」
「あ……ああ……」
ジャクリーヌ階段落下事件は犯人イザベルによって、うやむやにされた。
イザベル、ジャクリーヌ、勇者、クンは馬車乗り場に向かい、シモンは受付のあるカウンターへと向かった。
「……越後屋よ! 例のモノ、準備できておるかのう?」
「ははあ! ここに揃えております……では、お代官様こちらを……」
突然、なぞの寸劇をはじめる、お代官ことシモンと、越後屋こと宿屋のおばさん。お代官様が受け取ったものの中身を確かめる。
「……越後屋よ、お主も悪よのう!」
「お代官様には敵いませんよ……それでは、またいらしてくださいね! シモンさん!」
「女将も世話になったのう! 是非、またこさせてもらうぞい!」
なぞの寸劇は突然の終焉を迎え、シモンは急いで、みんなが待つ馬車乗り場に向かった。