第29話 ゴブリン部族の森5
パンッ! 突然、手を叩いたような音がする。
「3戦目の話はそこまでじゃ。1戦目の確認にうつるとしよう。執事よ、これをあの者たちへ」
「ははあ!」
執事は、部族王からなにかを受取ると、それを勇者に手渡した。
「あっ! これはボクが隠した魔石だ!」
その魔石には、渦巻き状のものを、花びらのようなもので囲んであるマークが描かれていた。
「なに? このマーク! 可愛らしいわね!」
「これはね! はなまるって言って、褒められたときにつけられるマークなんだよ!」
「それでニコラちゃんは、はなまるを描いた魔石を、何処に隠しておいたんじゃ?」
「ボクたちが降りた所の脇にね、魔石が入りそうな、ウロがある木があったのを覚えてたんだ!」
その木のウロは、かなり上の方にあり、木の葉で見えづらい場所にあった。
「それを、忍びゴブリン隊のやつらは、あんな短い時間で見つけ出し、ここに戻ったというわけか」
「不可能に近い話じゃが、ニコラちゃんが入れたマークがあるのじゃから、事実として認めるしかないのう」
ゴブリン部族の森は、かなり広い。その中から、4体のゴブリンだけで、木のウロの中の小さな魔石を短時間で見つけ出したことは、とてつもなく異常なことであった。
「やつらはな、匂いに敏感なんじゃ。物の匂いにしろ、魔法の匂いにしてもな。探すものさえわかれば、地の果てからでも見つけ出してくるじゃろう」
部族王の言葉で、魔石が見つけられたことは、偶然ではないということがわかった。
「それで、勝負に負けたワシらは、どうなってしまうんじゃ?」
「皆様、しばらくお待ちくださいませ。部族王様が確認なさいますので」
執事がそう言うと、部族王は、魔法のカバンからなにかを取り出し、見ている。
「うむ。お主らは合格じゃ!」
部族王はそう言ったが、一体、なにが合格だというのだろうか?
「まずは皆様、部族王にかわり、我から謝罪させていただきます。大変申し訳ありませんでした」
執事は、左手を腹部に当て、右手は後ろに回し頭を下げた。
「わらわとおこなった、3つの勝負。あれは、お主たちを見極めるための、試練だったのじゃ!」
「試練とは、どういうことなの?」
「執事よ! 順を追って説明してやるがよい」
「ははあ!」
脇にいた執事が、部族王の前へと進む。
「ゴブリン部族には、ある伝説が、語り継がれているのです。それは『赤いマントを纏いし者が、馬の背に乗り、天から舞い降りる。それは、伝説のペガサスに導かれし救世主である』と」
「なるほどのう! ワシらが森に降りてくる様子を見て、伝説のペガサスに導かれし救世主だと思ったわけじゃのう!」
「それならば、普通に連れてくればよかったのではないか? 目隠しや手枷をつけた上に、3つの勝負など、する必要はなかったのでは?」
ジャクリーヌの言葉は、もっともなことであった。
「それについては、部族王様の手元をご覧になってください」
執事がサッと横に引き、部族王が手を広げる。そこには、赤、青、緑に輝く、3つの小さな玉があった。
「これは、ゴブリン部族の森に代々伝わる宝物、『召喚の玉』じゃ」
「とってもキレイな玉でございますわね!」
キレイな石集めが趣味のリアにとっては、石も玉も変わりなく、3つの色の輝く玉を、うっとりとした顔で見ている。
「この『召喚の玉』は、ゴブリンの精鋭を呼び出せる、魔法のアイテムなのでございます」
再び、執事が部族王の前にでた。
「それが、どう試練と関係するの?」
「『召喚の玉』の色は、それぞれの部隊と対応しております。赤は攻撃ゴブリン隊、青は守備ゴブリン隊、緑は忍びゴブリン隊となっております。3つの部隊と3つの勝負をしていただき、『召喚の玉』が実力を認めれば、対応する玉が光り輝く。そういう試練でございました」
「玉が光っているということは、勝負の勝ち負けは、関係なかったということね!」
「いいえ、それは違います。勝負は全て、我らが勝つ必要がございました」
「どういうことなの?」
部族王がバッと片手を広げる。それに合わせて、執事がサッと横に引いた。
「この『召喚の玉』は、導かれし救世主か否かを、見極めるだけでなく、その者たちに、与えるものなのじゃ」
「あたしたちに、『召喚の玉』をくれるということなのね!」
「『召喚の玉』で呼び出せるのは、お主らが戦った、3つの部隊じゃ。自分たちより弱い部隊など、呼ぼうとは思わぬじゃろう?」
「たしかに、その通りだわ!」
「そして、もう一つ、森の中から見つけ出した魔石、これもお主らに与えよう。赤いマントのお主、わらわの前へ来るがよい」
勇者が部族王の前に進み、片膝を着く。
「これを、受取るがよい!」
勇者は、『召喚の玉』3つと、はなまるの描かれた魔石を手に入れた。
「それでは、執事よ。この者たちを、森の外へ案内するがよい」
「ははあ!」
部族王はそう言うと、階段を登り、薄いカーテンの奥へと去っていった。
「では、ご案内いたしますが、どちらに向かってなさったのですか?」
「最初はシイバの村に向かっておったんじゃが、色々あってのう。今はこの森の東へと向かいたいのじゃ」
「かしこまりました。東でございますね」
執事の先導につづく、勇者パーティー。
「そういえば、執事さんって、部族王様の執事兼近衛兵と、守備ゴブリン隊の隊長と、攻撃ゴブリン隊の参謀をやってるんだよね?」
「ええ、やらせていただいておりますが」
「それだけやってるなら、他にもやってると思ってさあ! 例えば、森の侵入者に対する指揮官とか」
「よくお気づきになりましたね。森に侵入者が入ったときの、部隊の編成に配置、その統括をつとめさせていただいております」
執事は、とても嬉しそうに話した。全ての役割に、誇りを持っているようだ。
「執事よ! 他には指揮官はおらんのかの?」
「小部隊の隊長ならおりますが、全部隊を統率するものとなると、我だけでございますね」
「じじい! よく考えてみろ! もし、そんな指揮官がたくさんいたら、この国はゴブリン王国になっているはずだぞ!」
ジャクリーヌは自分で話しながら、その様子を想像してしまったようで、鳥肌が立っていた。
「執事さんだけでも、十分な脅威だと思うけどね!」
「我らゴブリン部族は、攻撃でもされない限り、外部を侵略するようなまねはいたしませんので、ご安心ください。そういう約束事がございますので」
「青龍様との約束事じゃの?」
「なぜ、お気づきになられたのですか?」
シモンの一言に、執事が少し驚いた。
「ワシらが闘い、部族王がおった洞窟。ディール山の火口じゃと言っておったのう」
「ええ、そうでございます」
「山の名前に青龍様の名がついておるんじゃ。そこが住処であるはずじゃ」
「はい。たしかに、あの洞窟のかなり上に、青龍様の住処がございます」
「はあ! これでやっと謎が解けたのう!」
急に、喜び跳ね回るシモン。
「じじい! とうとうイカれてしまったのか?」
「ジャクリーヌ! ワシはまだまだ元気じゃわい!」
「おじいちゃん! なにがそんなに嬉しかったの?」
「ワシはのう、師匠ペテルセンとともに、様々な研究をしておったんじゃ。その中に、長年解明できないものがあってのう」
「それが今、解明できたということね!」
「50年かかったぞい! ゴブリン部族の森と青龍様との繋がりの解明!」
シモンが興奮したまま、しばらく森を進む。
「そうでした。皆様にお伝えしておくことがございました」
「やはり、『召喚の玉』のことかの?」
「はい。『召喚の玉』では、色に対応した部隊を、1回だけしか呼び出すことができません。しかも、1刻という制限時間もございます」
「そうじゃろな! 召喚という強大な魔力が必要なものを、ポンポン使うわけにもいかんじゃろしのう!」
「はい。それもございますし、我らの森を守る中心部隊ですので、同時には呼び出すことができません」
「それだけ大切な部隊を、ワシらは預かっとるわけじゃ! 使うタイミングは見極めねばのう!」
話しているうちに、森の出口が見えてきた。ちなみに、1刻とは約2時間のことである。
「それでは、皆様とはここまでですね。『召喚の玉』を使われたときに、またお会いいたしましょう」
「お待ちください、執事様!」
別れの挨拶の最中に、突然リアが割って入った。
「私たちがいただいた魔石。あれはどのようにして、手に入れられたのですか?」
「あれは、1ヶ月ほど前だったでしょうか。我が弓の鍛錬をしていました所、大きな鳥が光る石のようなもの掴み、飛んでおりました。いい練習になると思い、矢を射ってみますと、その魔石だったのです。大変美しいものだと思い、部族王様に献上させていただきました」
「教えていただき、ありがとうございました」
リアは頭を下げ、お礼を伝えたが、なにやら、落ち着かずソワソワしているように見えた。
執事に手を振り、森を完全に抜けた。
「ニコラちゃん師匠! 探求の羅針盤を見てただけますか? はなまるの魔石は私が、預かっておきますので!」
「はい、どうぞ!」
先程からソワソワして、鼻息が荒くなっているリアが、勇者から魔石を受取る。
「えーと、何処を押すんだっけ?」
「少し出っ張った部分を押してくださいませ」
探求の羅針盤は、リアが直すときに、新たに蓋がつけられていたのだ。
パカッ、勇者が探求の羅針盤を開いた。
「あれ! 西を指して、プルプル震えてるよ!」
「では、次はどうでしょうか?」
リアはそう言いながら、移動した。
「次は、北を指してプルプルしてる!」
「リアよ! もしかして不良品をつくってしまったんじゃないかの?」
リアに鋭い視線が集中する。
「違いますよ! これが5つの魔石の1つ目なんです!」
リアは、勇者から渡された、はなまるの魔石を掲げていた。




