第25話 ゴブリン部族の森1
「ここがどこだか忘れてない? ここは、とても危険な、ゴブリン部族の森のど真ん中よ!」
イザベルの一言で、無事に降りることができた喜びから、恐ろしい現実に引き戻される。
「とりあえず今は、森を抜けることだけを考えよう! 南に向かって、シイバの村を目指す!」
「お待ちください、ジャクリーヌ様。私たちが降りてくるとき、少し東に流されておりました。それを考慮いたしますと、ノルトハイム平原側に抜けるほうが、早いかと思われます」
「たしかに、ディール……いや、青龍様は鍛冶師の村より、少し東へ向かっていたような気がするのう」
シモンは、ディールと言いかけたときに、リアの殺気を感じたようで、すぐに青龍様と言い換えたのだった。
「ねえ! あれはなんなの?」
勇者は、崖の手前にある、石積みの小さな塔のようなものを、指差しながらそう言った。
「あれは、ゴブリンが縄張りを示すためにつくったものじゃよ! 平らな石を積み重ねてのう!」
「なんで、5つもあるの?」
「ハッキリとはわからんが、この森には、たくさんのゴブリンの部族が住んでおる。塔の数によって、部族ごとの縄張りを主張しとるんじゃないかの!」
「へえ! ゴブリンって面白いね!」
ただの敵だと思っていた、ゴブリンの事が少しわかり、なんだか嬉しそうな勇者。
「それでは先に進むとしよう! だが、森に入ると、方角がわからなくなってしまいそうだな!」
勇者たちが降りてきた所は、丁度少しひらけた場所になっており、太陽の位置を確認することができた。しかし、少し先の森の中は、背の高い木々が茂っており、空も見えず、薄暗くなっていた。
「大丈夫でございます。私が方角のわかる魔術具、コンパスを持っておりますゆえ」
「なんと! そんな魔術具があるのか! どんな仕組みか見せてくれんかの?」
未知の魔術具に、興味津々のシモン。
「おじいちゃん! それはこの森を、無事に抜けてからにするわよ!」
「リア! 先導をよろしく頼む!」
ジャクリーヌの号令で、リアを先頭に森へ入っていく勇者パーティー。
「なあ、ふと思ったんじゃが……ワシら、木の上に落ちとったら、一体どうなっとったんじゃろか?」
「はい。木の枝に魔術具の翼が触れた瞬間、翼は消え去り、そのまま地面に激突し、木端微塵になっていたことでしょう」
恐ろしいことを、平然と話すリア。
「ということは、ワタシたちが、今この場にいることは、ものすごい奇跡なわけだな!」
「翼の羽ばたき機能の成功よりも、ひらけた場所に降りれたこと。そちらのほうが、遥かに可能性が低かったことでしょう」
生きている喜びを噛みしめながら、森を東へしばらく進む。
ガサガサ、わずかにだが、木の葉になにかがあたったような音がする。
「おい! なにかが、近づいてくる気配がしないか?」
「そりゃ、ゴブリン共しかおらんじゃろのう! 見つかったら、お終いじゃぞ!」
「一旦、木の陰に隠れましょう! そこに、丁度いい木があるわ!」
イザベルが見つけた、幹の地際が太く、大きな穴が開いている巨木の中に、全員は隠れた。
「ニンゲン! イルノワカッテル! デテコイ!」
ゴブリンの声が、隠れている木の後ろの方から聞こえる。
「ここから出て、戦うか?」
「まだ、見つかったわけではないんじゃ! このまま隠れておれば、やり過ごせるはずじゃよ!」
「2人とも! もっと声を小さくして! 気づかれるわよ!」
息を潜め、隠れつづける勇者パーティー。
「コノアタリ! ヨクシラベロ! ニンゲン! カナラズイル!」
ゴブリンはどういうわけか、勇者たちがこの辺りにいることを、把握していた。
「きっと、私たちが降りてくる様子を、見られてしまったのだと思いますわ」
「こちら側の数も格好も、把握されているわけか! 厄介だな!」
「どうにか、やつらに気づかれず、この穴を抜け出さんことには、どうにもならんぞい!」
なんとか見つからず、隠れてはいるが、手詰まりの状態であった。
「そうだわ! 夕日よ! 夕日の光に紛れて抜け出しましょう!」
「なるほどです! この森は深くはありますが、木々の背は高うございます。横からの光であれば、ここまで届き、もし正面に敵が現れたとしても、逆光でこちらを発見するのは難しいことでしょう」
「それでは、その作戦でいくとしよう! 夕方まで、静かに潜んでおくぞ!」
イザベルの作戦に、勝機を見出し、巨木の穴に潜みつづける。
見つかることなく、時間が少し経過した。
「ちょっと誰よ! ブリブリ押してくるのは!」
「もしや! エロジジイ! こんなときに!」
「ワシじゃないぞい! それより、ワシもブリブリ押されておるのじゃが」
「ルディだよ! 外に出たくて、動こうとするんだ!」
「ちょっと待つのじゃ! それ以上押されると、ワシ……あっ!」
「イタ! ニンゲンイタゾ! アナノナカ! ナカマ! アツメロ!」
ゴブリンは、巨木の穴からはみ出た、シモンを見つけた。
「しまった! じじいが穴からはみ出たみたいだ!」
「これは、外にでるしかないみたいね!」
覚悟を決め、巨木の穴から外に出る。すると……
「完全に囲まれたようじゃ! 少なくとも20匹、といったところじゃのう!」
すでに、たくさんのゴブリンに囲まれており、木の陰にいるものも含めると、かなりの数のようだった。
「やはり、ここは戦って、突破するしかないな!」
肩に背負う両手剣に、手を伸ばそうとする、ジャクリーヌ。
「ジャクリーヌ様、お待ちくださいませ。ここは、手を出すべきではありません。囲まれてはおりますが、今すぐ攻撃をしてくる様子は、ございませんので」
「そうね! リアのいう通りにしましょ! 昔、あたしが攻撃されたのも、先に手を出しちゃったからだったしね!」
イザベルの言う、昔とは、ノルトハイム平原で勇者に話した、1人でゴブリン部族の森に入ってしまったときの体験談のことであった。
「武器は置いたほうがよいじゃろうか?」
「下手に武器には触らない方がいい! 刺激してしまうぞ!」
「それでしたら、ゆっくりと手を上げるほうが、よろしいかと」
リアの言う通りに、勇者たちはゆっくりと手を上げ、こちらに攻撃の意思がないことを、ゴブリンたちに伝えようとした。
「ニンゲン! ツカマエロ!」
その号令に合わせ、ゴブリンたちが近づいてくる。
「これは、戦わなくて正解じゃったのう」
「ああ! 部隊ごとに分かれて、陣形を組んでいる。スキが全く見当たらない」
50匹ほどのゴブリンが、4匹ずつで部隊となり、陣形を組みながら、勇者たちを囲んだ。
「ブキ! トレ! アレ! ツケロ!」
勇者たちは、ゴブリンに武器を取り上げられた。そして、目隠しの布を巻かれ、手枷までつけられてしまった。
「ツレテイケ!」
何処かへ連れて行かれる勇者たち。それぞれが、どこにいるかはわからないが、近くにいることは、足音などから想像ができた。
「ワシら、食われてしまうんじゃろか?」
「ゴブリンは、人を生きたまま、焼いて食べるって聞いたことがあるわ」
「やはり、あの場で戦うべきだったのかもしれないな」
腹を括っていたはずなのに、今になって後悔の念が生まれてしまった。
「いいえ、そんなことはありません。戦っていれば、すでに殺されていたでしょう。きっとこの先に、助かるための道があるはずでございます」
「リアの言う通り、きっと大丈夫だよ!」
リアと勇者の言葉に、なんとか希望を見いだし、うつむいていた顔を上に向ける、シモン、イザベル、ジャクリーヌ。
はたして、勇者たちはどうなってしまうのだろうか?




