第23話 鍛治師の村7
「さあ、皆様、こちらでございますよ」
リアの案内につづき、近道の場所へ向う。
村長の家をでて、しばらく西に向かうと、ドワーフの区域から人間の区域に来る時に見た、3つのアーチが連なる朱色の橋と同じものを渡った。
「この橋を渡り、ドワーフとエルフの区域を繋ぐ道を越えますと、青龍様の祠へとつづく、参道となります」
参道の入口は、石階段が3段あり、その先に大きな朱色の鳥居が立っていた。
「急に身の引き締まったような、特別な雰囲気を感じるな!」
「たしか、鳥居は神域の入口の門じゃと、村長のヒルデが言っておったのう!」
一礼して、鳥居をくぐると、石畳の両側に、玉砂利を敷き詰められていた。
「両側にたくさん、石の塔が置いてあるんだけど、リア、これはなんなの?」
「それは、灯籠と呼ばれるものでございます。灯が邪気を払うとされており、故人があの世で迷子になるのを防ぐための、道標ともされております。先にある祠の隣には、先祖を祀るお墓もございますので」
しばらく進むと、石畳の階段と、それを覆い尽くすような、無数の小さめの鳥居が連なるように立っていた。
「この石階段を登るのかの?」
「はい。この上に青龍様の祠があります。そこが、私が皆様をお連れする場所でございますので」
「ちょっとまってくれんかの! この階段、終わりが全く見えんのじゃが!」
「階段の終わりどころか、頂上すら確認できないぞ!」
「この階段は、言い伝えによりますと、3,333段あるといわれております」
「!? 3,333段じゃと! ワシ、辿り着く前に、死んでしまいそうじゃ……」
シモンは階段を登りはじめる前に、戦意を喪失してしまった。
「あくまで、3,333段というのは、言い伝えでございますので」
「もしかしたら、333段くらいかもしれんの! それならワシでもイケそうじゃ!」
シモンは戦意を取り戻した。
「実際は、33,333段あるかもしれません。しかし、階段の数など、どうでもいいことなのでございます」
「リアよ、お主なにを言っておるんじゃ?」
リアのたまにでる、意味不明発言が飛び出した。シモンはそう思っているようだ。
「この階段は、思いの強さによって、段数が変化するのです。青龍様の祠へ行きたい、ご先祖様に会いに行きたい、そんな思いが、階段の数を減らしていくのでございます」
「きっと、ワシらの思いは強いはずじゃ! イザベル! いつものヤツを頼むぞい!」
イザベルが前に出て、なにかがはじまる様子に、リアは興味津々のようだ。
「それじゃあ! 近道をしたい。そんな強い思いを抱いて、青龍様の祠まで登るぞー! えいえいおー!!」
『えいえいおー!!』
その叫びは、ヴァイスの元まで届いていた。
「ゼエゼエ……やっと……ゼエゼエ……頂上に……ゼエゼエ……到着じゃな……ゼエゼエ……」
「ハアハア……階段は……ハアハア……333段……ハアハア……だったわね……ハアハア……」
「お前ら! 333段位で、情けないぞ! ワタシも多少は疲れたがな」
シモンとイザベルは、かなりしんどそうだ。ジャクリーヌはちょい疲れ、勇者とリアはピンピンしている。
「リア、333段というのは、よい方なのか?」
「村に残されている記録では、最小が100段、最大が3,333段とされております。ですので、かなりよい方ではないでしょうか。近道をしたい、という不順な願いが、階段の数を少し増やしてしまったのでしょう」
「あたしとしたことが、しくじったわ! 近道をしたい。じゃなくて、魔王を倒して、早く平和を取り戻したい。にすべきだったわ!」
イザベルは、悔やんでも悔やみきれないようだ。
「ニコラちゃん師匠。100段も333段も、たいして変わりございませんよね」
「そうだね!」
頂上には、大きな鳥居があり、その先には、2体の龍の石像に守られた、祠があった。
「皆様、青龍様に旅の安全をお願いしてから、参るとしましょうか」
祠の前で、リアが手を合わせて頭を下げる。シモン、イザベル、ジャクリーヌも、それを真似してお願いをする。勇者はそのやり方を、以前から知っていたようだった。
「皆様、こちらが目的地の、近道の場所でございます」
「ここが近道の……って、リア! ふざけているのか! ただの断崖絶壁じゃないか!」
そこは、南にシイバの村、南東に王都リットベルガー、そして、南南西のビエルデ大樹海の中に埋もれるようにある、儀式の祠まで見渡せるほどの、高い場所であった。
「リアよ。ここを下るというんじゃあるまいな」
「いいえ。このような断崖絶壁を、下るようなまねはいたしません」
「では、どのようにするんじゃ?」
「はい。この魔術具を使いまして、滑空いたします」
リアは、手のひらに収まるサイズの、朱色の玉を持っていた。
「なるほどね! それで滑空しながら、シイバの村に行くということね!」
「その通りでございます。シンバの村に着いたら、シモン様、イザベル様、ジャクリーヌ様は、王都行きの馬車に乗っていただきます。私とニコラちゃん師匠は、ルディに乗って先行いたします。王都にシモン様たちが乗った馬車が到着する頃には、私たちを乗せた馬車と合流することができるでしょう」
「なるほどのう! 本来5日ほどかかる工程を、2日で行ってしまうということじゃのう!」
リアの非の打ち所のない素晴らしい計画に、感心するシモン。
「ねえリア、崖に沿って斜めに飛ぶことはできないの? 直接馬車の所まで行ければ、最高じゃない?」
「それはできません。この魔術具は、まだ完全なものではなく、方向を変えることができません。崖沿いを飛んでいるときに、わずかにでも横風が吹いてしまうと、崖にぶつかってしまいかねません」
「ちなみに、崖にぶつかるとどうなっちゃうの?」
「魔術具の効果が消え、落下してしまうのでございます」
「それは危険じゃのう! なんとか降りれたとしても、そこがゴブリン部族の森であったならば、落下するのと変わりはないからの」
崖の下には、危険なゴブリン部族の森が広がっており、そこだけは必ず、越えなければならなかった。
「それでは、皆様、お集まりください。よい風向きに変わりましたら、滑空を開始いたします」
魔術具を掲げるリアの元に、全員が集まる。
「あれ? ニコラちゃんがいないよ!」
あたりを見渡していると……ピコンッ!
聞き覚えのある音が鳴った。




