第20話 鍛治師の村4
「今日は、完成した探求の羅針盤を受け取って、新たな旅に出発! そんな1日になるな!」
朝から気合が入っている、ジャクリーヌ。それには理由があった。
「朝からあんなに旨いもんを食わせてもらったんじゃ! 気合がみなぎるのも当然のことじゃて!」
「あのカゴの中に、アレがあるわけよね? 漏れ出す匂いだけで、よだれが溢れて仕方がないわ!」
ヴァイスたちの元に向う勇者の腕には、布が掛けられたカゴがあった。話から察するに、カゴの中には朝食にだされた品が入っているようだ。そこからは美味しそうな匂いが漏れ出し、その匂いを1番もろに受けるクンが、襟巻きの中でよだれを垂らしまくってた。旗から見ると、勇者がよだれを垂らしまくっているようであった。
「ヴァイス、リア! 探求の羅針盤は完成したか?」
「ああ、出来上がっているとも! リア、お渡ししなさい」
「どうぞ!」
リアは、探求の羅針盤を勇者に手渡した。
「5つの魔石の探索は、一旦馬車を取りに戻ってからだな!」
「それじゃあ、行きましょう! ヴァイス、リアお世話になったわね!」
イザベルの話から、お別れのタイミングだと見て、勇者が抱えていたカゴの布を取ろうとする。どうも、カゴの中身は今回のお礼の品のようだ。
「ちょっと待つのじゃ! ヴァイスにリアよ! お主たちに確認しておきたいのじゃが」
「おっしゃってください。シモン様」
「探求の羅針盤を使って、魔石の1つを見つけたとする。それは、近くの街の鍛冶師にお願いして、つけてもらえばよいのかのう?」
シモンの話を聞いて、ふむふむという顔をする、ジャクリーヌ、イザベル。勇者はまだ、このタイミングではないと判断したようで、布にかけていた手をスッと戻した。
「いいえ、鎧に魔石を着けることができるのは、刻印を入れた者のみ。つまり私だけでございます」
「それではリアよ。ワシたちと一緒に来てはくれぬか? 魔石を見つける度に、この村まで戻っていては、時間が足らぬのでのう」
「それはできません。村の掟により、ここを離れることは叶いませんゆえ」
リアの意志は固く、連れて行くことは難しそうだった。
「リアよ! 俺も村の掟は大切だと思う。しかし、勇者様たちを、お助けすることができるのだぞ! しかも、リア、お前にしかできないことなんだ!」
ヴァイスがリアの説得に回った。
「お父さん、私はすでに村の掟を1つ破っています。これ以上、私には決してできません」
「無理を言ってしまったようじゃのう。5つ全てを集めた後に、また戻ってくることにしようかのう」
これ以上の説得は無駄だとわかり、無理強いしようとしてしまったことを、謝るシモン。
「話はもう、おしまいなの?」
突然、勇者が話に入ってきた。
「そうじゃ、ニコラちゃん。お別れをして、再び旅に出発じゃて!」
「それじゃ、お礼にこれを! はい、どうぞ!」
勇者は、抱えていたカゴの布を取り、中の品をリアとヴァイスに手渡した。
「こ、こ、こ! これはなんですか?」
リアの様子がおかしい。
「昨日、鶏舎でもらった卵をつかって、マヨネーズをつくったんだ! そして今朝、それをつかって、アボカドパイを焼いたんだ! リアとヴァイスにお礼がしたくて!」
昨夜、勇者が厨房つくっていたものは、マヨネーズとパイ生地の下準備だったのだ。
「それでは、召し上がれ!」
勇者の言葉に合わせ、アボカドパイを口に運ぶ、リアとヴァイス。
「なんだ! こんな旨い食い物、はじめて食ったぞ!」
「このサクサクの食感の生地に、濃厚な味がするおソース! その上に、さわやかな果物ようで野菜のような、とても美味しいものが乗っている! ここまで完成された料理に、私、出会ったことはございませんわ!」
ヴァイスも料理に驚いているが、リアの驚きは次元が違うように見える。
「ワシも、朝食にこれが出てきたときは、あまりの旨さに驚いてしもたのう! ジュルリ」
「あたし、美味しすぎて、3つたべちゃったわ! ジュルリ」
「イザベルは食いしん坊だからなあ! まあ、ワタシは5つだがな! はっはっは! ジュルリ」
目の前で、美味しそうに食べるリアとヴァイスを見て、よだれを抑えるのに精一杯の3人。
「朝食に出てきた? ということは、皆さん、こんな美味しいものを、毎食頂いておられるのでございますか?」
「宿屋に泊まったりするとき以外は、すべてニコラちゃんが美味しい料理をつくってくれるわ!」
イザベルの話を聞いた後、リアはブツブツ呟きながら、なにかを考えているようだ。
「ニコラちゃん様! 仮の、仮のお話ですが! もし、私が旅にお供させていただいたとします。その場合、私に料理法などを教えてくださるなんてことは、できますでしょうか?」
「うん! 教えてあげるよ! リアと一緒に料理できたら、きっと楽しいだろうなあ!」
勇者はとても楽しそうな顔をしている。頭の中では、リアと料理をしている様子が、浮かんでいるようだ。
「ニコラちゃん様! 是非とも、私をお供にしてくださいませ!」
先程まで、固い決意で旅の同行を断っていたリアが、勇者に土下座をして、同行をお願いしだした。
「なんじゃ? そこまでして、料理法を知りたいということかの?」
「こいつは、鍛冶仕事も大好きだが、料理研究はもっと大好きなんだ。卵をもらった鶏舎っていうのは、リアが鶏の肉を食べるために飼いはじめて、それが大きくなったものなんだよ」
「どんな理由があったにせよ、リアが来てくれるなんて嬉しいわ! それより、頭をあげなさいよ! ニコラちゃんが断るなんてこと、有り得ないんだからね! あと、様はいらないわよ!」
「リア! 一緒に行こう!」
そう言って、勇者がリアに手を伸ばす。
「よろしくお願いいたします。ニコラちゃん師匠!」
勇者の手をがっちりと握り、リアが立ち上がる。
そして、3人が駆け寄る。
「戦士ジャクリーヌだ! 改めて、よろしくな!」
「魔法使いシモンじゃ! よろしく頼むぞい!」
「僧侶イザベルよ! よろしくね!」
握手を3つ交わし、リアが仲間に加わった。




