表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/122

第13話 天順2

「まさか……もぐもぐ……こんな朝早くに叩き起こされて……もぐもぐ……列に並ぶなんてことになるとはな! ……もぐもぐ」


 おにぎりを頬張(ほおば)りながら、開店前の店に並ぶジャクリーヌ。今朝は、強めの肉球パンチでクンに叩き起こされた。


「仕方ないでしょ! ……ぽりぽり……希少(きしょう)な品を手に入れるには、……ぽりぽり……こうでもしなきゃ無理なんだから!」


 たくあんをかじりながら、開店前の店に並ぶイザベル。今日が楽しみすぎて、かなり早く目が覚めた。


「日の出まであと少しってとこね。ジャクリーヌ! 段取りはわかっているわね?」

「ああ! しっかり頭の中に入っている! それにしても、まさか、2人1組の2(はん)になるとは思ってなかったぞ! てっきり、4人でそれぞれ店を(まわ)るものかと……」

「チッチッチ! そこが素人(しろうと)とプロの違いよ! この作戦は完璧(かんぺき)なんだから!」


 立てた人差し指を振りながら、(えら)そうに講釈(こうしゃく)()れるイザベル。


 その作戦というのは、まず、イザベルとジャクリーヌ、シモンと勇者の2班にわかれる。それぞれ目的の店に並び、開店の時刻である、日の出を待つ。店が開き、順番がやってきたら、リーダーが商品を選ぶ。リーダーとは、イザベルとシモンのことである。商品を選んだら、店主との交渉(こうしょう)に入る。ここでの買い物は、物々交換(ぶつぶつこうかん)で行われるため、交渉(こうしょう)をする必要があるのだ。交渉(こうしょう)が決まり次第(しだい)、リーダーは次の店に移動する。補佐役が、店主に交換の(しな)を渡す。補佐役とは、ジャクリーヌと勇者のことである。渡した(しな)を店主が鑑定(かんてい)するのを待つ。鑑定(かんてい)というのは、渡された(しな)が本当に交換するのに見合ったものかどうか、確認する作業のことで、この工程の中で最も時間がかかる部分である。鑑定(かんてい)終了後、商品を受取る。そして、補佐役はリーダーのもとへ向かう。これを繰り返し行う、というのが、今回の作戦であった。


「じじいとニコラちゃんは、どうしてるんだろうな?」

「ほら! あそこに見えるわよ! 霧がかかってて少し見えづらいけど……」

「おーい! じじい! ニコラちゃーん!」


 反対側の店の列の、少し離れた場所にいる2人に向かって、手を振りながら呼びかける、ジャクリーヌ。



「あれ? 今なにか聞こえなかった?」

「気のせいじゃろ! それより、今話しておった、おにぎりの具、というのはなんじゃ?」

「おにぎりの中にね、醤油(しょうゆ)おかかやねぎ味噌(みそ)、ツナマヨネーズなんかを入れると、とっても美味しいんだよ!」

「ショウユオカカ? ねぎ以外なんのことかわからんが、具材を入れると、より美味しくなるということはわかったわい! それにしても、よくそんな発想をできたものじゃのう!」


 この世界の文化には、おにぎりに具材を入れる、というものがなかったのだ。


鰹節(かつおぶし)はさすがに無理だろうけど、醤油(しょうゆ)味噌(みそ)は、頑張ればつくれそうかな。でも、旅をしながらじゃ難しいか……そうだ! マヨネーズならすぐつくれるよ! 新鮮な卵があれば!」

「マヨネーズじゃと! ニコラちゃんがいうんじゃから、とても(うま)いものであると思うが……新鮮な卵など、どこにも出回っておらんのじゃよ」

「ここでも手に入らないの?」

天順(てんじゅん)デリシャスにも出ることはないのう……ん? 日の出の時間じゃ! 店が開くぞい!」


たたたた♪たたたた♪たたたたたたた♪(演奏)

たたたた♪たたたた♪たたたたたたた♪(演奏)

みんな新鮮♪みんなおいーしーいー♪

ニャンニャン♪ニャン♪ニャン♪(コーラス)

みんた食べれば♪みんな満ーぞーくー♪

みんな大好き♪みんな喜ぶ♪

天順(てんじゅん)デリーシャースー♪

ニャンニャン♪ニャン♪ニャン♪(コーラス)

ニャンニャン♪ニャン♪ニャン♪(コーラス)


 日の出とともに、開店を告げる『天順(てんじゅん)デリシャスのテーマ』が流れ始めた。その曲は、開店と同時に、買い物というこれから行われる(たたか)いを()げる、ゴングでもあった。


「気合い入れていくぞい! ニコラちゃん!」

「まかされて!」


 そして、シモン、勇者、イザベル、ジャクリーヌの4人は、買い物という激しい(たたか)いに、身を投じていった。



「これで、手に入れるべき(しな)は、全部(そろ)ったのう!」

完璧(かんぺき)に作戦をこなすことができたようね! みんな、お疲れ!」

「ミッションコンプリート!」


 そう言いながら、親指をビッと立てる勇者。


「ハァハァ……お前たち、なんで平然(へいぜん)としてられるんだ……ハァハァ……ワタシはもう一杯一杯(いっぱいいっぱい)だ……ハァハァ……昨日の下見(したみ)のときは……ハァハァ……あんなに息を切らしていたのに……ハァハァ」

「そりゃあ、目の前に欲しい物があったからに決まっておるじゃろう! のう! イザベル!」

「好きなことをやっていると、疲れないものなのよ! まあ、天順(てんじゅん)デリシャスは特別だけどね!」


 言われてみれば、たしかにそうだと納得し、(うなづ)くジャクリーヌ。


「群衆の中をあちこち動き回るのも大変だったか、ずっと耳に入ってくる、この変な歌。これが疲れの、一番の原因のような気がするのだが……ん? 音楽が突然とまったぞ! どういうことだ?」

「ということは、アレがくるのう! イザベル!」

「ええ! この(もよお)しを盛り上げる、アレの登場ね! おじいちゃん!」


 そう言って、手のひらを商店街の奥に向かって差し出す、シモンとイザベル。どうぞ、あちらを御覧(ごらん)ください。ということのようだ。


 その先に、神輿(みこし)のようなもの入ってきた。それに合わせ、動物たちは道を開け、その脇で、拍手をしたり口笛を吹いたりして、一斉(いっせい)に盛り上がり始めた。神輿(みこし)が少しづつ近づいてくる。それに合わせて、音楽も近づいてくる。聞き覚えのある曲、そう、『天順(てんじゅん)デリシャスのテーマ』だ。神輿(みこし)の一段目では、動物の音楽隊が音を(かな)で、二段目では、猫のコーラス隊が美しい声を披露(ひろう)している。そして……


「あれが、ワシの師匠、ペテルセンじゃ!」

「あれが、あたしのひいひいおじいちゃん、ペテルセンよ!」


 神輿(みこし)の最上段で歌う人物を指差す、シモンとイザベル。


「ワタシたちが、ここまで会いに来た人物、ペテルセン……それがあれだというのか!?」


 白い長髪(ちょうはつ)に、そこからのぞく長い耳、胸の上辺りまでのびる長い(ひげ)があり、背はかなり低め、ペテルセンは、そんななりをしていた。

 そして、キッラキラに輝く、金ピカの着物を着ていた。簡単に言うと、マツ○ンサンバである。


「よくあんな変なものを着て、こんな変な歌を、人前で歌えるものだな!」

「たしかに、ワシも、これはないじゃろ! と思うこともなくはないの!」

「あたしも、ありかなしかと言われたら、なしよりのなしね!」

「ボクは意外とありだよ!」


 弟子や玄孫(やしゃご)にボロクソに言われる、ペテルセン。唯一(ゆいいつ)、救いの言葉を発した勇者であるが、意外と、でしかない。


 一旦、歌と演奏がとまる。


「おう! お主ら、きておったか! 今年の天順(てんじゅん)デリシャスも、なかなかのものじゃろう!」

「ひいひいおじいちゃん! 元気そうだね!」

「師匠! お久しぶりですじゃ!」

「イザベル! お前はあいかわらず可愛(かわい)いのう! シモン! お主、敬語はやめんか! タメ口で話せ!」


 神輿(みこし)の上から、怒鳴るようにして話す、ペテルセン。とにかく声がでかい。


「お主らは、(わし)を訪ねてきたんじゃろ! 先に、家にいっておれ! それでは、ミュージック、スタート!」


 再び、歌と演奏が開始された。


「なにかすごい人だな! いろんな意味で! いつもあんな感じなのか?」

「違うわ、普段はおとなしい人なの。今はテンションがあがっているだけだと思うわ」

「そうじゃ、ジャクリーヌ。師匠の家では、決して敬語を使っちゃならんぞ!」

「たしか、さっきはそれで怒られていたな。だが、問題ないように見えたぞ」

「さっきのは、師匠のテンションの高さで助かったんじゃ。普段の師匠の前じゃったら、ヘソを曲げて、2、3日、口を聞いてくれなくなるんじゃよ」

「なんと面倒(めんどう)くさいじいさんだな!」


 ペテルセンは、変わり者で人と関わるのが好きではなかった。そのために、この天順(てんじゅん)という場所を、様々な魔術具を駆使(くし)し、つくりあげたのある。天順(てんじゅん)とは、正式な地名ではなく、ペテルセンが名付けたものであり、ここの存在を知るものは、彼に認められた者と、平原に住む動物たちだけであった。


「師匠はたしかに、面倒(めんどう)で変わってはおるが、1度認めた者に対しては、とても優しく、しっかりと面倒(めんどう)を見てくれるんじゃよ!」

「ここに来るのを、楽しみにしてた理由の1つも、それだしね!」

「あと、ここにいる動物たちも、そうだね!」

「そうだな! そうでもなければ、こんなたくさんの動物達が、集まることもないだろうしな!」


 ただの変わり者で、面倒(めんどう)なじいさんだと思っていたペテルセンが、意外と良い人物だとわかり、ほっこりとする勇者とジャクリーヌ。


「おっ、あれがペテルセンの家だな! 中で待たせてもらうとしよう。そろそろやってきそうだしな!」

「まだ、しばらくは来ぬと思うがの! のう! イザベル!」

神輿(みこし)で3往復(おうふく)はするはずだから、まだまだ先ね!」

「なんだと! あれを3往復(おうふく)も行うというのか!?」


 ジャクリーヌは、先程、ペテルセンを良い人物と認めたのを取り消し、変わり者の面倒(めんどう)なじじいに格下げした。


「あの神輿(みこし)をやったあと、毎回アレが起こるのよね! 不思議だわ!」

神輿(みこし)のあとのアレは、奇跡のようじゃからのう!」

「ねえねえ! アレってなに?」


 早く答えを知りたくて、うずうずする勇者。ジャクリーヌも、こっそりうずうずしているようだ。


「なんと、全商品が売り切れちゃうの! 驚きでしょ?」

「急に、全ての店の前に列ができるんじゃ! 驚きじゃろ?」

「それは、なにか怪しい魔法でも使っているんじゃないか? さすがにあり得ないだろう!」

「たしかに! 師匠ならやりかねんのう!」

「ひいひいおじいちゃんなら、やっても不思議ではないわね!」


「いやー、今回も完売させたぞい! (わし)神通力(じんつうりき)も、まだまだ(おとろ)えておらんようじゃのう!」


 やり遂げた顔をして、ペテルセンが家に戻ってきた。


「なに! 神通力(じんつうりき)だと! やはり魔法の(たぐい)をつかっていたのか! この不道徳じじいめ!」

「お主、元気がよいのう! 気に入ったぞい!」


 ジャクリーヌの言葉をサラリと流す、ペテルセン。


「まずは、中に入るがよい。茶でもすすりながら、ゆっくりと話すとしよう。5つの魔石と、その装備のことを……」


 勇者を指差しそう話す、ペテルセン。

 勇者は装備をつけていないのに、なぜわかったのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=818740172&size=135  ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ