第118話 ディールの住処1
「ぼくはフラメ。火の精霊さ」
火の精霊フラメは、山吹色の毛で覆われた子狐のような姿をしており、額と胸、首周り、そして尻尾の毛が炎に包まれていた。
「そうか、わかったぞい! 封印が解かれたのはお主だったのじゃな!」
「なるほどね! タブちゃんのボタンでフラメの封印が解けて、ニコラちゃんの勇者の装備の真の力が解放されたというわけね!」
シモンとイザベルはハイタッチを交わし、謎が解けたことを祝った。
「そうだね。ある意味それであってるよ」
フラメは少し含みのある口調で答えた。
「それよりみんな、ここから出ようよ。外で話がしたいんだ」
「なにを言っておるんじゃ、フラメよ! お主の家は、そこの祠ではないか!」
「だいたい、外に出るわけにはいかないな! クンのヤツがまだ戻ってきていないのだからな!」
「クンなら大丈夫。必ず会えるから。そして、その祠はぼくの家であって、そうでもないんだ」
フラメは、再び含みのある口調で答えた。すると、勇者がフラッと倒れそうになった。
「おっと、ニコラちゃん大丈夫か?」
「どうやら、眠っておるようじゃのう! ジャクリーヌよ、そっと抱えて運んでやるがよかろうて!」
ジャクリーヌが素早く勇者の体を支え、そのまま抱きかかえて外に連れ出すことにした。仲間たちとフラメは洞窟の入口に向かって歩き始める。
「ジャクリーヌ様の抱え方、お姫様抱っこと言うのですよ。以前、ニコラちゃん師匠から教わりました」
「たしかに、ニコラちゃんの可愛らしさからすると、お姫様という言葉がピッタリね!」
「となると、ジャクリーヌはさしずめ王子様、いや、騎士様じゃのう!」
「なんだと、くそじじい! ワタシが男だとでも言いたいのか!」
ちょっかいを出すシモンに、それに怒るジャクリーヌ。いつもの賑やかな光景に、仲間たちは自然と笑顔になる。眠っているはずの勇者の顔も、笑っているように見えた。
しばらくして洞窟の入口が近づくと、勇者が目を覚まし一緒に歩き始めた。
「なんだ? 洞窟の外に何かいるぞ!」
「かなり大きいようじゃが、新手の敵かのう?」
ジャクリーヌが背中の両手剣に手をかけ警戒する。謎の影は、逆光でハッキリとした姿は見えなかったが、洞窟の入口を覆うほどの大きさであることはわかった。
「俺だよ俺! まったく、長い間待たせやがって!」
「その声はディールかのう? なぜお主がここにおるんじゃ?」
そこにいたのはドラゴンのディールであった。シモンが声をかけると、ものすごい顔でリアがシモンを睨みつけた。リアの鍛冶師の村ではディールは神であり、青龍様として崇められていた。そのため、本名で呼ぶことなど許されることではなかったのであった。
「鍛冶師リアよ! 俺を名で呼ぶことを、今日に限っては許してやれ! 話の邪魔になるからな!」
「青龍様がそうおっしゃるのであれば」
リアは顔を緩め、いつもの優しい顔に戻った。
「それよりお前ら、俺の背中に乗れ! 話をする場所へ移動するからな!」
ディールはそう言うと、前足を折りたたむようにして寝そべり、尻尾を勇者たちに向かってまっすぐ伸ばした。尻尾から背中に上れということだろう。
「馬と馬車は、俺が乗せてやるから安心しろ!」
ディールは前足を伸ばし、馬のルディと馬車を掴もうとした。しかし、ルディは怖がって逃げ出してしまった。
「青龍様、ルディと馬車は私にお任せください」
結局、リアが手綱を握り、馬車をディールの背中の上まで運んだ。そして全員、馬車の中へと乗り込んだ。
「それでは行くぞ!」
ディールの翼は広げられ、一気に大きく羽ばたいた。すると、その勢いでディールは驚異的な速度で上昇し、あっという間に雲の上へと出てしまった。
「なんと! 島の形が見えているぞ!」
「あっ! あれが東の集落だね! 族長のゲラルトさんやフィルスさんは元気にしてるかなあ?」
ジャクリーヌと勇者は馬車の窓から外の風景を眺めながら興奮していた。仲間たちもその声に引き寄せられるように窓の近くに集まってきた。
原住民の島上空を抜けると、しばらく海だけの風景が続いた。その間に、ディールが来たのは偶然でなく、以前からフラメと約束をしていたということ、3つ目の試練の火山の噴火音を合図にディールがやってきたことを勇者たちは伝えられた。
「よし! 着いたぞ! 降りる準備をしろ!」
高い山の上空から、ディールは大きな火口へと降りていく。そして、山中腹にある広い岩場にディールは着地した。リアが手綱を握り、手際よく馬車を降ろす。
「一体ここはどこなんじゃ?」
「ここは俺の住処だ! 人間からはディール山と呼ばれているな!」
「ということは、外はゴブリン部族の森なのだな!」
「執事さんたち元気にしてるかしら?」
イザベルたちは懐かしい場所に戻ったことに興奮し、ソワソワとしていた。
「みんな、それよりもまず、ぼくたちの話を聞いてもらうよ」
フラメがそう言うと、岩場の中央に進んだ。勇者たちも中央へ進み、いつの間にか人間の姿に変身していたディールとともに、全員で輪を作るように座った。
「その前に、俺が準備を整えよう!」
ディールはそう言って左手を掲げ、手のひらを上に向けた。そして何かを念じると、虹色を帯びた硝子のような物体が8つ回転しながら浮かび上がった。ディールは左手をグルグルと回すと、8つの物体は上下に4つずつ分かれて、座った全員を包み込むように配置された。
「むんっ!」
ディールが叫ぶと、物体から青みを帯びたシールドのようなものが現れ、立方体を形成した。
「ディールよ、これは一体なんなのじゃ?」
「これは何者からも盗聴を防ぐことができる、完璧な結界だ!」
ディールはシモンの質問に自信に満ちた表情で答えた。
「つまり、これからする話は、他の者に聞かれてはまずいということだな!」
「でもそれだったら、ここじゃなくてフラメの洞窟の前でも良かったんじゃないの?」
ジャクリーヌとイザベルは探偵の真似事でもするかのように、オーバーリアクションで話した。
「いや、それはできんのだ。たしかにこの結界は、この世の誰であろうとも盗聴することはできない。魔王でさえもだ!」
「青龍様は、魔王以上の存在に警戒されている。そういうことですね」
「そうだ。だから、この場所を選んだのだよ!」
ドラゴンが長く住んだ場所には、その者の力が宿り、そこで使用された術も強化されると言われている。ディールは自身の盗聴防止の術が最大の力で発揮できる、この地を選んだということだった。
「しかし、魔王以上の存在などこの世にはおらぬじゃろう? ディールよ、お主が警戒しておるのは誰なんじゃ?」
シモンの質問にディールがどんな答えを返すのか、勇者たちは期待と不安を膨らませながらゴクリと唾を飲み込んだ。
「俺が警戒しているのは、神だ!」
想像の範疇を超えたディールの答えに、勇者たちは驚きを隠せなかった。
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になる、面白い!と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
このページの下にある、
【☆☆☆☆☆】をタップすれば、ポイント評価出来ます!
ぜひよろしくお願いします!




