第二話
その後は二人共無言で馬車に揺られていた。
ルイリは相変わらず窓の外の景色を眺めながら、男性の方はそわそわしながら、申し訳無さそうに視線をあちこちに向けながら、二人共黙って馬車に揺られていた。
そうしてほとんどの時間を沈黙が支配する馬車に揺られる事十五日、遂に馬車はルイリの赴任地に到着した。
領主館の正門前で止まった馬車からまずは男性が降りていき、続いてルイリが降りていった。
そしてルイリが降りる時には男性がルイリの手を取ってルイリが馬車から安全に降りられるようにサポートしたのであった。
そうしてルイリと男性の二人は領主館の正門をこじ開けて領主館の正門内に入っていったのである。
こうして領主館の敷地内を領主館の玄関に向けて歩いていくルイリと男性。
そしてルイリが自身のこれからの住居である領主館の玄関まで続く階段の前で立ち止まると、その場で領主館の正面全体を一通り眺めて、溜め息を吐きながらこう言った。
「なにこの廃墟一歩手前の領主館は…?」
これが領主館を見たルイリの感想であった。
具体的にどのくらい廃墟一歩手前だったかと言えば、正門の鉄柵は完全に錆び付いており、館の壁は幾重にも絡まった蔦に覆い隠され、周囲には雑草が生え放題の、一言でお化け屋敷だと説明されても不思議では無い程の荒れ果てようだった。
「申し訳ありません…」
ルイリの言葉に男性が何度目かわからない謝罪の言葉を口にしたのであったが、ルイリは、
「もういいですよ、あなたが悪い訳じゃないんですから。…それよりも確認したい事があるんですけど…」
と、言って男性の謝罪を制止すると自身が男性に聞きたい事を質問しようとしたのである。
そして男性はルイリの言葉に黙って頷くとルイリは自身が聞きたい事を男性に尋ねたのであった。
「それでは確認させてください。私の馬と武器が届くのは明日、という事で間違いないんですね?」
ルイリのこの質問に男性は大きく頷きながら、少し顔色を悪くさせつつ答えたのである。
「はい、間違いありません。…ただ少し問題がありまして…」
「大丈夫、何が問題かはわかってるから」
男性がルイリの質問に答えている最中にルイリが若干男性の答えを遮る形で口を挟んでいった。
そしてルイリは続けて、
「あの子がでっかくて扱える人間がいないって事でしょ?それはわかってるから大丈夫。明日中にここに届けば大丈夫だからさ」
と、男性に話して伝えたのであった。
そして男性はルイリの言葉に、
「明日中には必ず届けます。それは間違いなく、絶対に」
と、力強く答えたのである。
そしてルイリは男性のこの言葉を聞いて、
「それを聞いて安心しました」
と、答え、そして続けて、
「それではあなたはもう城に帰らなければいけないんですよね?」
と、男性に尋ねたのである。
そして男性はルイリの言葉に、
「…はい、陛下の命令で…。申し訳ありません…」
と、しばらくぶりの謝罪の言葉を口にしたのだった。
しかしルイリは男性の言葉に、
「私の事は大丈夫です。なんとかしますよ。ですからあなたは早く城に帰った方がいいですよ?遅れたら陛下のお叱りがあるでしょうしね?」
と、返して男性に早く城に帰るように促したのであった。
この言葉に男性は、
「…ありがとうございます。…そうそう、忘れてはいけない。ルイリ様、こちらをどうぞ」
と、言って鍵の束をルイリに差し出した。
「これは?」
差し出された鍵の束を受け取りながらルイリが男性に尋ねた。
「この領主館の鍵束でございます。危うく忘れるところでした…」
ルイリの問い掛けに男性がそう答えた。
そして男性は続けて、
「では私はこれで城に帰らせていただきます。…それではルイリ様、どうかよろしくお願いいたします」
と、話すとルイリに一礼してここまでの道を引き返していき、馬車に乗り込むと城に向けて引き返していったのである。
こうして結果的にとはいえ廃墟一歩手前の領主館に一人取り残される形になったルイリは、
「…さて、これで一人ぼっちだな…。…うーん…これからどうするかなぁ…」
と、言うと頭を抱えながらその場に座り込んだのであった。