第99話 最期は訪れる⑥
ベイドの肉体が風化し始める。
端から崩れて砂のように壊れていく。
己の限界を無視し、身に余る力を引き出した代償だ。
崩壊は絶対的でどんな方法でも食い止められない。
ベイドの命は燃え尽きたのだ。
崩れかけの身体を動かしたベイドは、どうにかして膝立ちの姿勢になる。
彼は真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「殺せ……それが勝者の、責務だ」
「ああ。分かった」
俺は剣を後ろに引いて構える。
ベイドに抵抗する力はない。
何の工夫もせずとも命を奪えるだろう。
柄を握る手に力を込めた俺はベイドの正面に立つ。
「お前は良い弟子だ。志は何も間違っていない。それだけは勘違いしないでくれ」
「……今更か」
「ずっと分かり合えなかったが、これだけは伝えておきたかった」
俺の言い訳を聞いたベイドは苦笑する。
呆れているようだ。
俺だって似たような心境である。
最期にならないと本音も話せない。
虫が良すぎる発言なのは自覚しているが、それでも言いたかった。
互いに英雄を重んじるという信念があった。
それにも関わらず、主義の違いで決別してしまった。
別に後悔はしていない。
仕方なかったと思っている。
きっと和解の道もあったのだろう。
しかし、俺達はそこへ辿り着くことができなかった。
"万能"の錬金術師などと呼ばれているが、俺も所詮はただの人間である。
できないことは多く、そのたびに無力感に苛まれる。
俺は刃に魔力を通していく。
ベイドが少しでも苦痛を味わわないようにしておきたかった。
俺は血みどろの顔で少し笑う。
「俺もいずれ追いつく。その時にゆっくり話そう」
「楽しみにしている」
ベイドも笑う。
執念も諦めも通し越した、どこか清々しい表情だった。
彼は目を閉じて静かに首を差し出してくる。
俺は淀みない動作で剣を振るった。
ベイドの首が落ちて、全身が完全に風化していった。
僅かな痕跡は風に攫われて消える。
そこまで見届けた俺は剣を投げ捨てた。
踵を返して拠点へと戻る。
すぐにユエルが走り寄ってきた。
彼女は遠慮気味に話しかけてくる。
「アッシュ様……」
「また死に損なった。強くなりすぎるのも考えものだな」
俺は冗談めかして言ってみるも、ユエルは物憂げなままだ。
彼女は窺うように尋ねる。
「大丈夫ですか?」
「問題ない。少し疲れただけだ……弟子殺しなんてやるものじゃない」
俺はため息を吐き、泥のように重い思考を切り替える。
いつまでも感傷に浸る暇はなかった。
「後処理を始めるぞ。まだやるべきことが山積みだ。地道に進めていかないといけない」
「英雄はもういないのでは?」
「戦争がある限り、英雄は生まれ続ける。たとえどんな時代でもな。俺は彼らにも理想の死を与えなければならない」
俺は自分に言い聞かせる。
ベイドにも進むと告げたのだ。
弟子を殺して意志を貫き通したのだから、その責任は取るべきだろう。




