第98話 最期は訪れる⑤
隻腕となったベイドは構わず斬撃を飛ばしてくる。
俺は大地を隆起させて防御した。
果敢に仕掛けてくるベイドに指摘する。
「焦りが動きを大雑把にしている。挑発に乗るな。怒りは自刃にも等しい」
隆起させた地面が巨大な手になり、躱そうとしたベイドの右脚を鷲掴みにする。
そのまま力任せに握り潰した。
指の隙間から血飛沫が飛ぶ。
動きを封じられたベイドは掴まれた右脚を切断し、長剣を杖にして退避した。
その直後、荒れた地面につまずいて転倒する。
俺は目に付いた剣を拾うと、それを持ってベイドのもとへ向かった。
ベイドは必死に這い進む。
他の英雄の死体を漁って欠損部位に繋ごうとしているが、魔力不足で時間がかかっている。
戦闘においてはあまりに致命的な隙だった。
いくらベイドでも機動力を失っては満足に戦うことができない。
俺は感情を込めずに告げる。
「もう諦めろ。どう足掻いてもお前は勝てない」
「なぜ、だ……これだけの力を手に入れたというのに……」
ベイドは掠れた声を洩らす。
近付いても攻撃してくる気配がない。
執念に満ちた目に力は無く、既に勝機は失われたと理解しているようだ。
俺は静かに述べる。
「努力したのはお前だけじゃない。俺だって目的のためにすべてを捧げてきた」
英雄達に理想の死を送ることだけを考えて、この五十年間を過ごしてきた。
ベイドの努力も凄まじいものだが、俺も決して劣っていない。
「誰しもが報われる人生を送れるわけではない。お前の使命は頓挫し、歴史の裏側へと葬られるんだ」
「……最低な師だな」
「事実を述べたまでだ。それとも気遣ってほしかったか」
俺は苦笑して言う。
ベイドは数瞬の躊躇いを経てから呟く。
「……てほしかった」
「何だ」
「認めてほしかった。お前に、そう望むのは傲慢、か?」
ベイドは弱々しい様子で問う。
俺は何も答えることができなかった。
彼は気にした風もなく、血を吐きながら言葉を続ける。
「お前は苦難の道を歩み続けている。身勝手だが自分本位になり切れない……他の英雄のために力を尽くしている。弟子として、どうにか止めたかった。そのために騎士国を立ち上げた」
「ベイド」
「本当に救われるべきは、お前自身だ。死だけが、安息に……」
地面を見つめるベイドは眠りそうになるも、寸前で顔を上げた。
彼は俺に尋ねる。
「まだ、進む……のか」
「無論だ。俺はすべての英雄のために生き続ける」
「自らの終焉は……幸福は考えないのか。お前も英雄の、一人だ……戦場で死ななければ、ならない」
ベイドは言い聞かせるように語る。
彼の眼差しは、ある種の呪いとなって俺の目に焼き付いた。




