第96話 最期は訪れる③
ベイドが次の攻撃に選んだのは百刀流だった。
手元に亜空間と繋がる穴を生成し、次々と刀剣を取り出しながら斬撃と刺突を放ってくる。
目にも留まらぬ速さで武器が入れ替わり、余った物が空中を舞っていた。
ベイドはそれらを巧みに活かして怒涛の連撃を浴びせてくる。
当然、近接戦闘の技能を持たない俺は為す術もなく斬られまくった。
無刃剣も木っ端微塵になって消失した。
加速する剣技は、ベイドの力量を最大限に表している。
一方で俺は冷静だった。
肉体再生で百刀流の破壊力を誤魔化しつつ、その動きを観察し続ける。
(本家以上の仕上がりだが、欠点は克服できていないな)
再生速度が攻撃速度を上回っており、このまま攻撃されても俺が死ぬことはない。
ベイドはそれに気付いているが手を止められないのだ。
おそらく彼はこの後の展開に悩んでいる。
現状、俺の反撃を封じ込められているものの、さらなる一押しが足りなかった。
僅かな隙を見せれば、即座に形勢が覆りかねないことを理解しているに違いない。
疲労と焦りは思考を鈍らせる。
歴戦の英雄であるベイドも例外ではないのだ。
(さて、そろそろ攻めるか)
俺は錬金術で全身の硬度を部位ごとに不規則に変換する。
肉を切り裂く音に金属音が混ざり、ベイドの体勢に乱れが生じた。
硬度の差に反応できず、攻撃に失敗したのだ。
取り落とされた刀剣が次々と地面に散乱していく。
経緯は異なれど、百刀流の本家"刀匠"ナキと同じ結果を辿ることになった。
ベイドの判断は早かった。
すぐさま飛び退いて距離を取りつつ、残る刀剣を投げつけてきた。
俺は避けずに受け止めると、腹や手足に刺さったそれらを捨てて笑う。
「ほんの僅かなずれで破綻する。勢い付いて習得するのは悪くない。ただ、即興で俺に通じると思うなよ」
ベイドからの返答はなく、代わりに長剣を打ち込んでくる。
先ほどよりも数段は速い。
身体強化の他にも、錬金術で肉体の構成を無理やり弄り、死霊術で己を操っているようだ。
かなり強引な手段だが、その甲斐もあって驚異的な底力を発揮していた。
もっとも、俺を死に至らしめるほどかと言われればそうではない。
やはり決定打不足だった。
どれだけ速く、強力な一撃を叩き込まれたとしても、それを凌駕する回復力と防御策があれば関係ない。
至近距離では魔力吸収が働くため、ベイドは理想の攻撃を放てない状態にある。
正攻法ならまず勝てない相手でも、戦い方を工夫するだけで互角以上の攻防を演じることができる。
ベイドという男の能力はよく知っている。
五十年で飛躍的に成長しているが、根本の型は変わっていない。
相手の弱点と自分の強みを浮き彫りにさせることで、俺は有利な状況を維持していた。




