第93話 英雄の墓場⑧
荒野が夕焼けに染まり、夜の気配を漂わせる。
拠点の外壁は部分的に崩壊し、付近の大地は穴だらけになっていた。
それらが壮絶な戦闘の痕跡を物語る。
荒野の只中にベイドが佇んでいた。
全身が血みどろで、鎧は残らず消し飛んで破れた衣服を纏っている。
露出した肌には重度の火傷を負っていた。
部位によっては骨や筋肉や内蔵された魔導器が露出している。
体内の魔力のうち半分以上を消耗し、呼吸も乱れて顔色も悪い。
どれも数々の激戦を切り抜けてきた証だ。
心身とも疲弊し、限界を何度も超えた極限状態なのだった。
今にも倒れそうな姿だが、目の鋭さだけは不変である。
ベイドの周りにはたくさんの死体があった。
いずれも英雄だ。
俺が呼び出して、ベイドに敗北した者達である。
外壁に立つ俺は亜空間に意識を向ける。
内部に収納した結晶が一つもない。
この五十年間で募った英雄が尽きたのだ。
正直、予想外の事態であった。
もっと時間をかけて、適切な戦場に派遣する予定だったはずが、まさかベイドに全戦力を注ぐことになるとは。
まあ、悲観することではない。
戦死した英雄は死に場所を求める者達ばかりだ。
強敵との正面対決で息絶えるのは本望だろう。
戦いの中で死ねた以上、英雄達に後悔はないはずだ。
拠点の内側では、ミハエルが門を開けて外に出ようとしていた。
彼は呪槍を持って気合を入れている。
己の死を受け入れて、立ち向かう表情をしている。
俺は先んじて呼び止めた。
「やめておけ」
「なぜだ! あれだけの英雄が挑んだんだ。俺にだって進む資格がある!」
「過去の因縁を清算しているだけだ。現代の人間が責を負うべきではない。むしろ取られては困る」
俺はミハエルの抗議を流すと、隣にいるユエルに小声で指示を出した。
「ミハエルが乱入しないように見張っておいてくれ」
「承知しました。ですが私は参戦しなくてよろしいのでしょうか?」
「不要だ。俺が終わらせてくる」
首を左右に動かし、肩をゆっくりと回す。
深呼吸で魔力の循環を整えて胸を張る。
気分は悪くない。
良い具合に落ち着いている。
戦うには十分すぎる調子であった。
ユエルはどこか悲しげな表情で呟く。
「……ご武運を」
「別に負けて死ぬのも本望ではあるがな」
俺は外壁から飛び降りる。
落下中、そばにミザリアが出現した。
彼女は皮肉を込めて笑う。
「やっと死ぬ決心がついたのかい?」
「別に。とっくに覚悟はできている。まあ、憂いが無くなったのは大きいが」
俺は本音を洩らす。
するとミザリアは、ばつが悪そうに顔を歪めて舌打ちした。
彼女は目線を逸らしながら言う。
「……また死に損なったら修道院に来な。一杯奢るよ」
「ああ、楽しみにしている」
そう返事をするとミザリアは消えた。
ほぼ同時に俺は大地に着地する。




