第92話 英雄の墓場⑦
呪術を克服したベイドは歩みを進める。
彼が目を付けたのは"刀匠"ナキの遺品である散らばった刀剣だった。
それらを亜空間の穴に放り込んで収納していく。
それにしても、予備としては些か多すぎる。
槍だけでは足りなかったのか。
量を揃えたところで扱い切れず、亜空間の負荷が増えるだけだろう。
指摘するまでもなく気付いているはずだ。
しかし、ベイドは入念に武器を選び取っている。
考えなしの行動とは思えない。
ここで俺はとある可能性に思い至る。
(……まさか)
もしやベイドはナキの模倣を試みているのではないか。
あの剣が舞う高速剣術だ。
見たくらいで真似ることができる代物ではないが、ベイドならば実現できるかもしれない。
それこそ、本家すらも凌駕しかねない執念を持っている。
亜空間の使用には警戒すべきだろう。
武器の収納を終えたベイドは長剣で左腕を切り落とす。
そして"人形使い"エルワットが所有する生き人形の一体から、左腕を奪って自身の断面に押し付けた。
白煙を発した後、腕はぴたりと接着された。
死霊術で定着させたのだ。
不揃いな腕の太さは錬金術で形を修正している。
左手が問題なく動くことを確認したベイドは俺を見上げる。
闘争心は微塵も衰えず、むしろこの上なく燃え盛り、さらなる殺し合いを前に覚悟を決めていた。
必要とあれば、全身をすげ替えてでも戦い続ける。
そのような意志が感じ取れた。
俺は魂の奥底から揺り動かされる感覚を覚えた。
静かな興奮がせり上がってくる。
「上等だ。続きを始めようか」
俺は前に手をかざす。
亜空間より出現した結晶は、英雄の墓場と化した荒野へと落下していった。
応急処置を済ませたベイドは淡々と立ち向かう。
"癒王"フェンシは常人の数万倍の速度を誇る回復魔術で挑んだが、ベイドに殺された。
"無限陣"マイラは全方位に高位精霊を召喚したが、ベイドに殺された。
"盗技の目"ロアは生涯を懸けて習得した数々の技を使ったが、ベイドに殺された。
"妖刀使い"エンヴィはあらゆる生命を喰らう力を持っていたが、ベイドに殺された。
"魔女"エラは生贄となった魂を総動員したが、ベイドに殺された。
"因果応報"ルルゥは青炎を倍返しにして焼き尽くそうとしたが、ベイドに殺された。
"外出嫌い"のマニエラは広大な城を叩き付けたが、ベイドに殺された。
"強欲"タワイは心臓に指が届くところまで至ったが、ベイドに殺された。
"獣王"フィリムは圧倒的な破壊力で優勢を保っていたが、ベイドに殺された。
誰も敵わなかった。
老騎士に次々と英雄が挑み、死んでいく。




