第91話 英雄の墓場⑥
ベイドは生首から眼球を抉り取ると、自身の眼窩にはめ込む。
数度の瞬きをした後、フロクの目は自然と馴染んでいた。
左右の瞳の色の違いを除けば、無理やりはめ込んだとは思えない。
ベイドが使ったのは死霊術だ。
眼球という死体の一部を移植し、己を素体に定着させたのである。
そもそもベイドの肉体は、全身が余すことなく改造されていた。
部位ごとに死霊術や魔導器の人工器官を仕込むことで、老いによる衰えを補っている。
英雄との連戦で傷を負っても倒れないのはそのためだ。
今のベイドは苦痛を超越している。
高度な複合技術を成立させたその身体は、もはや人間と称すべきか怪しい段階に至っていた。
ベイドは"弓導師"ローレイの切断された片手を拾う。
彼の視線は革細工の腕輪に注がれていた。
腕輪は魔力の矢を生み出す魔導器だ。
ベイドはそれを自らの右手に装着する。
弓は持っていないが、別の使い方を考えているのだろう。
"賢者"イワンコフは刻まれて肉片となり、激戦の余波のせいで地面にへばり付いていた。
土と混ざって見分けが付かないそれを、ベイドは削り取って口に運ぶ。
何度か咀嚼してから無言で飲み込んでいく。
優れた魔術師の血肉は魔力回復に役立つ。
味は劣悪だが、今のベイドに選り好みする余裕はない。
彼は限界寸前まで消耗していた。
気を抜く間もなく連戦を強いられていたのだから当然だろう。
魔力が枯渇すれば戦い方が大きく制限されるため、ベイドは土でも人肉でも平気で嚥下する。
ある程度まで回復したベイドは"竜騎士"スグゥの炭化した亡骸を漁った。
そこから遺品の槍を発掘する。
青炎に熱されたはずの槍は変形せず、むしろその力が浸透している。
属性的な相性が良かったのだろう。
ベイドは槍を腰に差して予備の武器にする。
適度な長さなので動きを阻害されることはなさそうだ。
次はどうするのかと思っていると、ベイドが唐突に静止した。
彼の肌を蝕む呪術の痣が蠢き、音もなく長剣へと這い進む。
間もなく刃に漆黒の模様が浮かび上がり、肌の痣が完全に消えた。
"罠師"ニアの魔法陣で受けた呪術を錬金術で抽出して長剣に付与したのである。
肉体を破壊する毒を攻撃手段に転用した発想と技術は見事と言う他ない。




