第90話 英雄の墓場⑤
"人形使い"エルワットは、真紅のドレスを揺らしながら高笑いを響かせる。
優雅に差し出された左右の指から魔力の糸が伸び、それぞれが彼女の所有する生き人形――生きたまま仕立て上げた特殊なゴーレムに繋がっている。
ベイドの前に並ぶ生き人形はちょうど二十体。
対個人において、エルワットが最も力を発揮できる数だった。
エルワットの指が動き、生き人形達がベイドに襲いかかる。
搭載された悪辣な武器や魔術が完璧な連携を以て発動していく。
生前、エルワットはブラハと交流があった。
つまり生き人形達には、あの"砲王"の兵器が仕込まれている。
地形を変える規模の破壊が絶え間なく放たれる。
拠点の外壁にも余波が浴びせられて破損していた。
もはや手出しできる状況ではなく、ただ見守るしかない。
辺りが静まり返った時、そこに立っているのはベイドただ一人だった。
彼の周りには解体された生き人形が散乱している。
それらに紛れてエルワットも死んでいた。
彼女の胸部は青炎で焼け焦げて炭化しかけている。
生き人形との繋がりを示す指は残らず断ち切られていた。
エルワットの奮闘が無駄だったかと言えば決して違う。
ベイドの鎧は完全に破損し、ほとんどの魔術的機能を失っている。
加えて片目が魔力の糸で縫い付けられていた。
乱戦の中でエルワットがやったのだろう。
ベイドは縫われて閉じた片目に触れる。
糸を千切ろうとするも、かなり頑丈なのか難儀している。
目を傷付けずに切除するには手間がかかるだろう。
エルワットの執念が為せる技だ。
魂を込めた妨害はそう簡単に剥がせるものではない。
ベイドは懐からナイフを取り出すと、縫合された片目をおもむろに刺した。
柄を回すことで器用に眼球をくり抜く。
魔力の糸も力任せに引き千切った。
これにはさすがの俺も驚く。
(一体あいつは何をしているんだ)
正気の沙汰とは思えないが、ベイドは極めて冷静に見える。
彼なりの意図があるのだろうか。
興味が湧いた俺は次の英雄を投入せず、何が始まるのか確かめることにした。
ただ愚直に殺しにかかるのではなく、しっかりと見届けるべきだった。
ベイドは付近を歩き回る。
やがて彼は何かを見つけて持ち上げた。
それは"闇底"フロクの生首だった。




