第83話 空を落とす⑤
ブラハの砲撃が付近一帯の魔力を乱す。
砂塵が吹き荒れて俺でも感知が困難な状態となっていた。
常軌を逸した威力である。
おそらくはブラハの切り札の一つだろう。
旧来の魔術と魔導器の混同兵器だ。
圧縮された魔力を何倍にも強化して解き放つのが見えた。
砲弾となった七色の光は術の属性を表している。
あれだけ多様だと完璧に防ぐのは難しい。
いくつもの属性を内包させることで、どんな相手にでも通用する兵器に仕上げているのだ。
徹底的に欠点を潰した設計であった。
そういった工夫をすると肝心の威力が伴わないものだが、ブラハの技術力をもってすれば強引に両立が可能らしい。
(騎士軍はどうなった?)
漆黒の魔力が晴れて、やがて着弾地点の状態が明らかとなる。
地上に広大なすり鉢状の穴ができていた。
底は見えず、かなりの深さがある。
壮絶な光景が砲撃の威力を物語っていた。
騎士軍は跡形もなく消失していた。
結界も人間もすべて消し飛ばされている。
ゴーレム軍も同様だった。
地上付近にいたものは砲撃に巻き込まれたようだ。
射程外にいた飛行型と、砲撃の殺傷範囲を把握していたブラハだけは、高度を維持したことで無事である。
穴の縁で立ち上がる人間がいた。
無表情で土を払うのはベイドである。
彼は平然とブラハを見上げていた。
そんなベイドに向けて無数の光が集まってくる。
光は騎士軍の魂だ。
砲撃で死んだ者達が、団長であるベイドへと引き寄せられていた。
俺はベイドを中心に構築される魔術を分析し、その正体を突き止める。
同時にミザリアが発言した。
「死霊術だね。味方の魂を使った自己強化……ありふれちゃいるが効果は高い。生前の忠誠心があれば尚更さ。かなり厄介だよ」
「分かっている」
魔導器の反応とは違う。
ベイド本人が行使する術だ。
まさか死霊術まで習得しているとは思わなかった。
戦場の経験で必要と判断し、どこかで身につけたのだろう。
佇むベイドは全身に燐光を帯びている。
多量の魂を取り込んだことにより、体内魔力が桁違いに増えていた。
落ち着いた様子を見るに、この結果は分かっていたようだ。
きっと最初から部下が全滅する前提で組まれた作戦だったのだろう。
部下もそれを承知で従軍していたに違いない。
騎士国は多大なる犠牲を払いながらも、俺達をねじ伏せる覚悟を持っていた。




