第81話 空を落とす③
騎士国の動きは予測済みだった。
ベイドは英雄による世界統治を目論んでおり、今はまだ途上にある。
完遂させるならば、傭兵団は必ず邪魔になる。
過去の英雄が現代の戦争に割り込んで死のうとしているのだ。
決して見逃せない存在だろう。
だからこうして直々に現れるのは想定の範囲だった。
「俺達は止まらないぞ。命尽きるまで暴れてやる」
ブラハのゴーレム軍が騎士を蹂躙していく。
熱線の連打が結界を貫き、騎士を穴だらけにした。
爆撃の衝撃波が、果敢に動こうとした青年を四散させる。
粉砕された結界がすぐさま修復されるも、破壊の嵐を前に追いついていない。
魔力を使った高火力の熱線は、単純だがそれ故に防ぎにくい。
爆撃も同様だ。
魔導器で対抗できる規模ではなかった。
騎士達が抵抗できずに死んでいく。
しかし彼らは撤退しない。
執念深く攻め立てて反撃を狙っていた。
これだけの被害で士気が落ちないのは、ひとえにベイドの指導が行き届いているからだろう。
騎士軍は上部の結界を維持しつつ、魔力の斬撃を飛ばし始めた。
爆撃を繰り返す飛行型ゴーレムを墜落させようとしているようだ。
まずは移動範囲を制限されている状況を打破したいらしい。
同時にブラハも狙っている。
言わずもがな、諸悪の根源だからだ。
操縦者を潰せばゴーレム軍を止められると考えたようである。
よく見ると騎士軍の中には魔術師も混ざっていた。
ゴーレムに向けて様々な術を投射している。
俺は騎士軍の構成に感心する。
(珍しいな。旧来の魔術を使う人間までいるのか)
魔道器が主流の時代によくも集めたものだ。
同じことを考えていたのか、ブラハが大喜びで拍手をする。
「がっはっはっは! 面白い戦術だ! もっと見せてみろォッ!」
ブラハは製造した兵器が破壊される様に盛り上がっていた。
そして、樹海から新たな兵器を追加投入する。
まだ戦力が尽きることはなさそうだ。
現状、騎士軍が劣勢なのは言うまでもない。
ブラハは延々とゴーレムを呼び出すことができるのだ。
どれだけ破壊しても大した損害にはならず、一方で騎士達は数が減るばかりである。
このままだと戦局が覆ることはなく、あっさりと決着することになる。
無論、そうなるとは思っていない。
向こうの軍を率いるのは俺の元弟子なのだ。
こういった時に何をすべきかも叩き込んでいる。
突如、結界の上にいたゴーレムが固まった。
見れば胴体や頭部が切断されている。
重力に従って解体されていくゴーレムは爆発して完全に沈黙した。
結界の上にはいつの間にかベイドが立っていた。
彼は長剣を掲げた姿勢のまま、冷淡に告げる。
「焦るな。一体ずつ排除していくぞ」
絶望感が漂いつつあった騎士軍は統制を取り戻した。




