第78話 秩序を掲げる⑦
死線を潜るたびにベイドの才能は開花した。
まず発現したのは錬金術師の適性だ。
言うまでもなく、俺の指導が契機となって目覚めた。
発現後、ベイドは術の練度の底上げを図った。
基礎的な魔力の操作に加えて、最低限度の技能を習得した。
ひたむきに努力する姿は評価に値するものだったが、肝心の実力は俺の足下にも及ばなかった。
一般的な錬金術師よりも少し優れている程度である。
贔屓目に見てもまだ常識の範疇だった。
次にベイドが磨き上げたのは青炎の魔術だ。
血統の都合で生まれつき習得しており、小さな炎を発することしかできなかった。
持続力も低く、使い勝手が劣悪であるのは否めない。
しかしレイドは諦めなかった。
錬金術を併用することで、尋常ならざる武器へと昇華させたのである。
優れた魔力操作は術の性能を引き上げる。
自らの特性を理解したベイドは、青炎を扱う錬金術師として戦場を渡り歩いた。
さらに数年後、ベイドは剣術も熱心に学んでいた。
鍛練はすべて実戦を使ったもので、敵味方を問わずあらゆる技を吸収していった。
ベイドは常に模倣と改良を積み重ねて、凄まじい速度で成長した。
そうしてついには、青炎を纏わせた剣を駆使した戦法を確立させたのである。
ベイド・シヴァラスの技能はいずれも二流だった。
それらを組み合わせることで、一流の領域にしがみ付いてみせた。
半端な多才を唯一無二の力に仕立てたのは、間違いなく彼の才覚であった。
自他ともに認める英雄と言えよう。
俺達は同じ戦場を駆け抜けた。
師弟から互いに高め合う関係までに至り、世代は違うが生涯の友と言えるほどになった。
国によっては、俺達を二人一組の英雄とまで呼んでいた。
ところが大戦の中期、考えの違いから俺達は対立した。
ベイドは世界の統治のために二人で動くべきだと訴えた。
英雄には大いなる力があり、それを使って平穏を実現するのが責務だと主張したのである。
崇高な思想だ。
民衆は彼を褒め称えて賛同の意を示すだろう。
実際、ベイドを崇める者は少なくなかった。
しかし俺は真っ向からベイドの主張を否定した。
自分には世界の統治など向いておらず、決して辿り着けない目的だと悟っていたのだ。
ベイドの訴えは机上の空論に過ぎない。
現実はもっと過酷で、個人がどうにかできる域を超えていた。
それに、俺は自らの本心を知っている。
大前提として平穏など望んでいないのだ。
世界の統治にだって興味がない。
混沌としてくれた方が都合が良い。
ようするに戦争を望んでいたのである。
俺は正義の側ではない。
救世主となることを放棄し、この力を血みどろの殺し合いに捧げていた。
説得ができないと分かり、ベイドは俺のもとを離れた。
その後、彼と会うことはなかったが、大まかな動向は耳にしていた。
ベイドは"騎士団"という組織を設立した。
実態は無所属の傭兵団なのだが、名称には彼なりの主義が込められているのだろう。
騎士団は数々の戦場で多大なる功績を残し、瞬く間に名の知れた勢力となった。
さらには戦後も規模拡大を続けて、ついには国となった。
それが現在の騎士国である。




