第76話 秩序を掲げる⑤
城内の一室で魔力感知に注力していると、勢いよく扉が開かれた。
現れたのは守護ゴーレムのシュアだ。
彼は慌てた様子で報告する。
「外部戦力が接近中。迎撃を、進言」
「待て。まずは様子を見てからだ」
俺はシュアを落ち着かせながら部屋を出る。
迎撃に移るのはあまり良い策ではない。
予想が正しければ、高確率で無力化されるだろう。
騎士国は各地の英雄を狩っている集団なのだ。
様々な能力に対応できるようにしているのは明白である。
ましてや傭兵団の本拠地に来るくらいなのだから、よほどの自信があると見える。
少なくとも刃影国の二の舞になることはないだろう。
城の外へと向かう俺の隣にはミザリアがいた。
彼女はどこか含みのある目付きで話しかけてくる。
「騎士国ということはあんたの因縁だね」
「…………」
「何を黙ってるんだい。認めたくないのかい?」
ミザリアの言葉からは嘲りが感じられた。
俺は何も言い返せない。
言い返す資格がないのだ。
(過去の因縁はどこまでも付きまとってくる)
俺は胸に鬱屈としたものを覚える。
それを振り払おうとしていると、曲がり角からユエルが飛んできた。
彼女は華麗な一礼と共に付き従ってくる。
「アッシュ様、ご同行します」
「ああ、頼む」
俺達は城を出て騎士団のいる方角へと向かう。
拠点内は既に防衛用の構造へと変化しつつあった。
シュアが能力で調整しているのだろう。
この場にはいないが、ミハエルも騒ぎに気付いて用意をしているはずだ。
ユエルは不敵な笑みを見せながら言う。
「我々に挑むとは身の程知らずですね」
「いや、今回ばかりは違う。向こうは勝つ見込みがあるようだ」
「え? それは一体……」
外壁に到着した俺達は、階段を上がって最上部から外を見下ろす。
騎士国の軍が整列してこちらを注視していた。
規模としては一万に満たない。
しかし、纏う風格は驚くほどに洗練されている。
現代の兵士では決して辿り着かないような雰囲気である。
想像を絶するような訓練を彷彿とさせる。
俺は気負わず騎士国に告げる。
「ここは我々の所有地だ。身勝手に踏み込もうとするのは感心できないな」
軍の仲かから一人の老騎士が進み出てきた。
藍色と灰色の混ざった髪の男だ。
古びた鎧を身に着けた老騎士は重々しく述べる。
「――錬金術師アッシュ・リーヴェライト。前時代の災厄よ。戦争を愛する狂人よ。世界に抗って死を蔓延らせる悪魔め」
憎悪、羨望、悲壮、嫉妬……様々な感情が混ざっていた。
老騎士はまた一歩進んで名乗る。
「私は騎士国団長ベイド・シヴァラス……まあ、お前はよく知っているだろうが」
皮肉った言葉の後に沈黙が訪れる。
ベイド・シヴァラス。
それはかつて俺の弟子だった者の名だった。




