第73話 秩序を掲げる②
残る一つの帝国の部隊は"餓鬼"スロードに任せた。
スロードは極端に痩せた浅黒い肌の老人で、平常時の俺よりも枯れた容姿の男である。
噂では百年以上を生きているらしい。
非力な身体は足腰が弱く、背中も曲がって姿勢が悪い。
体内魔力は微少で、もはや声も満足に発することができない。
いつ老衰で死んでもおかしくない状態だが、彼も英雄の一人だ。
スロードの能力は、触れたものから問答無用で魔力を奪うという体質である。
純粋な吸引力は俺をも凌駕する。
ただ、さすがに魔術を分解して無効化するまではできず、溜め込みすぎると肉体が自壊を起こすらしい。
使える魔術もあまり多くないので汎用性に欠けるため、俺の上位互換と言えるほどではなかった。
まあ、それでも白兵戦において無類の強さを誇るのは言うまでもない。
スロードの戦法は奪った魔力で肉体を強化し、魔力の武器を形成してひたすら投げ飛ばすだけだ。
巨人族用と錯覚する大きさの剣や斧を連続で放ち、相手の軍を叩き潰してみせる。
投擲の射程は遠距離用の魔導器よりも長く、地形を吹き飛ばす威力を持つ。
スロードは常に突撃しながらそのような破壊行為を繰り返すのだ。
支離滅裂な暴力が人間の形をして襲いかかってきて、そして抵抗できずに死んでいく。
帝国軍からすれば悪夢のような光景だろう。
そんな敵なしの虐殺を披露したスロードだが、戦闘直後にあっけなく死亡した。
何か傷を負ったわけではない。
魔力を使い果たした反動で死んだのである。
張り切りすぎて配分を誤ったか、或いは老いに勝てなかったか。
とにかくスロードは自らの能力に呑まれて命を落とした。
静かな最期だが、帝国軍を崩壊まで追い込んだ戦果は凄まじい。
英雄の名に恥じない功績であった。
スロードの戦死に、俺は不謹慎ながらも安堵した。
解放した英雄は、なるべく呼び出した戦場で死ねるように調整している。
もちろん状況次第でその限りではない。
連戦を前提で蘇らせる場合もあれば、英雄の実力が俺の予想と乖離する時もあった。
ボボのように自害を選ばれると、自らの判断が間違っていたのではないかと考えてしまうのだ。
実際はそこまでの過ちではないと理解しているが、やはり不安を抱く。
一方で同じ英雄として、自害に至る心境にも共感できる。
何度も戦っていいのだと分かると、やがて求めすぎてしまうのだ。
ともすれば生に執着して、死を恐れるようになるかもしれない。
たとえ終戦後の虚しさを知っていても、人間とは根源的な恐怖を振り払えないものである。
だから自ら区切りを付けるのは納得できる。
欲張らずに死を選べる者は高潔だ。
生き延びてさらなる戦場へと進む人間が悪いとは言わないが、潔さで言えば前者が勝る。
戦場で勝利した際の行動にこそ、英雄の本質が表れるのだろう。




