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錬金術師の傭兵団 ~古強者は死に場所を求めて世界戦争に再臨する~  作者: 結城 からく


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第72話 秩序を掲げる①

 俺達は帝国軍への攻撃を続けた。

 まだ戦争は序盤で、やるべきことが山積みである。

 悠長に過ごす暇はなかった。


 ボボが潰したのは、傭兵団を引き付けるための先遣軍だ。

 本命は南北の二方向から挟み込んでくる部隊であり、彼らは拠点包囲のために動いていた。

 傭兵団への侵攻は厳密には止まっていないのである。

 上手く時間稼ぎをして、最終的に三つの部隊で押し込むのが向こうの理想だったに違いない。


 相手の予定を狂わせるため、俺は即座に行動した。

 敗走の連絡が他の部隊に届く前に、それぞれの進路上に英雄を一人ずつ待機させる。

 以前のように拠点での防衛戦に持ち込むつもりはなかった。


 一人目の英雄は"千里眼"ハイムだ。

 すべてを見通す眼を持つ戦士で、大戦時はかなり苦戦させられた。

 せっかくの作戦を潰された経験も多く、戦略家としても優れた素質を持つ。

 ハイムとは終戦後に話を付けて封印を施した。

 戦時中は殺し合う関係だったが、彼が割り切った性格のおかげで争わずに済んだ。


 封印を解除したハイムは、すぐさま己の両目を潰した。

 これにはさすがの俺とミザリアも驚かされた。

 ハイム曰く「見えすぎて戦いがつまらない」らしい。

 盲目になるくらいがちょうどいいのだと彼は笑っていた。

 その口ぶりからは、大戦時に死ねなかった悔いを強く感じられた。

 逸脱した才覚を有するとは、時として呪縛になるのである。


 最大の武器を捨てたハイムは真正面から帝国軍に襲いかかった。

 彼は死を歓迎している。

 故に躊躇せず、一万を超える軍に立ち向かえるのだ。


 あまりに無謀だと思ったが、結論から述べるとハイムは生き残った。

 盲目になっても尚、彼は強すぎたのである。

 あらゆる魔導器の攻撃を躱し、最低限の動きで敵兵を仕留める姿は芸術的だった。

 ハイムは眼だけに頼っていたわけではない。

 限界を無視した狂気的な鍛練の果てに、完成された戦士の肉体を手にしていたのだ。

 知覚能力はずば抜けて高く、両目の欠損によって余計に研ぎ澄まされていた。


 ハイムの進撃は帝国軍を崩壊させた。

 勝ち負けなど言うまでもない。

 最初からこの結末は決まっていたのである。

 真の天才とは、恵まれた才能を極限の努力で昇華させる。

 "千里眼"ハイムはその代表例と言えよう。

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