第70話 帝国戦④
魔導器による射撃に対し、ボボは戦斧を叩き付けることで応じる。
殺到する魔力の矢が一振りでまとめて両断された。
次の瞬間、兵士達の持つ魔導器が爆発した。
兵士達は悲鳴を上げて破損した魔導器を投げ捨てている。
ボボは戦斧を担ぎ直すと、やはり一直線に襲いかかって斬撃を見舞う。
帝国軍は必死に反撃するも、そのたびに魔導器が勝手に故障して二次被害を出していた。
攻防の手段を失った兵士達は予備の武器を使うが、暴走するボボに敵うはずもない。
戦斧の範囲内にいる人間は等しく肉片となって四散する。
魔導器の故障はボボの持つ特殊な力によるものだ。
積み重ねてきた処刑の業が生み出したある種の呪いである。
ボボの攻撃は魔術を物理的に破壊し、その効力が魔力の繋がりを辿って術者まで到達する。
今回は魔導器なので故障という現象を引き起こしたのだ。
もし効果が魔術師に及べば、術式の逆流で致命傷を与えることができる。
この能力は理論を飛ばして強制的に発露する。
たとえば魔術の幻影を身代わりにしても、幻影の傷は術者にまで届いてしまうのだ。
防御魔術も意味を為さず同様の結果を招く。
再生能力や不死者も容赦なく抹殺できるため、俺やミザリアも滅多切りにされると死にかねない。
どんな存在だろうと平等に処刑する。
ボボ本人も理解していない形でそれを実現するのが、この能力の恐ろしさであった。
帝国軍は完全に瓦解していた。
既に相当数の兵が逃げ出しており、ここから再起するのはまず不可能だろう。
逃げずに挑む者もいるが、英雄と呼べるだけの逸材はいないようだ。
誰もがボボの前では無力な獲物と化していた。
俺は戦況を眺めながら述べる。
「これで帝国軍は出鼻を挫かれた。侵攻は大きく鈍り、援軍を送らざるを得ない。追撃するにはちょうどいい」
「帝国を滅ぼすつもりかい?」
ミザリアが探るように言う。
俺は肩をすくめて首を横に振った。
「まさか。戦力を少し削るだけだ。奴らを盤面から消すのは惜しい。戦争を盛り立てるのに必要だ」
「性格が悪いね。いつか地獄に落ちるよ」
「その覚悟はできている」
話しているうちに戦闘が終了した。
広大な屍の海の只中にボボが立っている。
半壊した戦斧を携える姿は傷だらけで痛ましいが、死からは程遠いように見える。
アンデッドであることを除いても、ボボはおそらく死ななかったに違いない。
俺達はボボのもとまで赴いて話しかける。
「大軍に勝利した気分はどうだ。これが戦うということだ」
ボボは戦斧を下ろす。
顔を隠す革越しに小さな声が発せられた。
「うれ、しい」
「それはよかった。死に損なったのは残念だろうが、今後も力を尽くして戦うといい。いずれ相応しい最期を迎えられるはずだ」
俺は親しみを込めて告げる。
しかし、ボボの反応は芳しくなかった。
俯いたままこちらを向かず、何事かを考え込んでいる。
俺は怪訝に思って尋ねた。
「どうした。何か不満か」
「もう、じゅうぶん。しにたい」
ボボは静かに呟いた。




