第68話 帝国戦②
"赤い牙"ランフォは死んだ。
そこで俺が取るべき行動は、次の英雄を呼び出すことであった。
帝国に恨みを持つ者はまだ残っている。
彼らに報復の機会を……そして戦場で死ぬ自由を明け渡すのが俺の使命なのだ。
結晶に亀裂が走り、防腐処理の施された死体が現れる。
黒い革で顔を隠した大男の死体だ。
膨れ上がった筋肉は土だらけで汚れている。
首には一周した縫合痕がある。
この大男は"断罪斧"ボボだ。
帝国で二十年以上も死刑執行人を務めた人間である。
当初はただの傭兵だったのだが、とある貴族に雇われてその仕事に就いたらしい。
国内における粛清の象徴として人々に恐れられたそうだ。
しかし終戦後、ボボは貴族の罪を被せられて首を斬られて処刑された。
俺が独自に調査した結果、それは間違いなく冤罪だった。
ようするに使い捨てられたのだ。
死刑執行人の代わりなどいくらでもいる。
いざという時のためにボボは子飼いにされていたのである。
理不尽な死だ。
誰もボボの犠牲を疑わず、むしろその死に安堵した。
それだけ嫌われていたのだろう。
生前、ボボは何度も傭兵に戻りたいと要望を出していたらしい。
しかしその願いが届くことはなかった。
つまりボボは戦場で死ねなかった者の一人なのだ。
俺が手を差し伸べるだけの理由があった。
故に彼の墓を暴いて封印し、英雄らしく死ねるために準備を進めていたのである。
ミザリアが手をかざした。
指先から黒い霧がこぼれ出して死体に浸透し、根底から変貌させていく。
「不死者の"断罪斧"なんて……とんでもない怪物になりそうだね」
ミザリアがぼやいた直後、ボボが起き上がった。
俺は素早く事情を説明する。
帝国軍との距離はまだあるが、向こうはこちらの存在に気付いている。
ほどなくして攻撃が始まるだろう。
事情を聞いたボボは無言で頷いた。
そして、ゆっくりと帝国軍のもとへ歩き出す。
速くも遅くもない、ごく自然な動きである。
大きな背中はおぞましい熱量を発し、見る者の恐怖を揺さぶるような気迫を宿していた。
間もなく帝国軍から魔力の矢が投射された。
圧倒的な物量攻撃に対し、ボボは鬱陶しそうに手で払う。
矢が全身各所に突き刺さるも、彼は構わず進み続ける。
滲む血液が全身を赤黒く染め上げていく。




