第65話 まだ見えぬ高み⑥
俺は深々と嘆息し、ミザリアとユエルを注意する。
「喧嘩はやめてくれ。今は協力が必要な時期だ。仲間同士で争っていると計画が破綻する」
「申し訳ありません。気を付けますわ」
「ふん、ただのじゃれ合いだよ」
二人はそれぞれの反応を示すも、別に真剣に怒っているわけではないようだ。
ただし殺意は本物であった。
シュアが止めなければ、軽い術の打ち合いは起きていたかもしれない。
ミザリアは実体ではないが、二人ほどの術者ならあまり関係のないことである。
咳払いをしたミハエルが俺に尋ねる。
「騎士国の他に宣戦布告をした国はあるのか」
「ある。帝国だ。しかも既に侵攻を開始している」
「何」
ミハエルが顔を歪めた。
にわかに緊張感を露わにして呪槍を握り直す。
全身から戦意が熱気のようになって発散されている。
彼は窓の外を気にしながら言う。
「呑気に会議をしている場合なのか」
「俺達が守るべきはこの拠点だけだ。帝国軍には好きにさせておけばいい。他の領土をどうされようと構わない」
拠点の周囲には不毛の土地が広がっている。
どれだけ破壊されようと不利益はなく、厳密には侵攻されたとも言えない。
国ではないからこそ、他を切り捨てることができる。
民がいないのも身軽な要因であろう。
俺は両手を広げ、皮肉を込めてぼやく。
「帝国は傭兵団について"混沌をもたらす秩序の敵"と定めたらしい」
「はは、そいつは面白いねえ。よりによって帝国が言うのがお笑いだよ」
ミザリアが手を叩いて笑う。
ユエルは冷徹な表情で忌々しそうに意見を述べる。
「攻め込む大義名分がほしいだけでしょう。聞くに値する主張ではありません。彼らは良質な魔導器を収穫したいだけかと」
「そうだな、俺も同意見だ。奴らが狙っているのは俺達の命に違いない」
旧時代の英雄は強い魔力を持つ。
つまり魔導器の材料として最適なのだ。
周辺国と慢性的な戦争を繰り返す帝国にとって、高性能な魔導器の入手は重要な任務である。
色々と理由を付けているが、結局は私利私欲を押し通すための建前に過ぎなかった。
ミザリアはぎらついた眼差しで宣言する。
「上等だよ。傭兵団の力を知らしめるいい機会じゃないか。あたし達でぶっ飛ばしてやろう」
「珍しく気が合いますね。私も同じ気持ちです」
ユエルも乗り気だ。
お淑やかに振る舞っているが、獰猛な殺気が隠し切れていない。
その隣でシュアが拳を握って意志を表明する。
「拠点の防衛は、徹底する。誰も通さない」
「大規模戦争なら俺の力も試せそうだ。早く追い付けるように鍛えさせてもらう」
ミハエルが呪槍で床を打ち鳴らす。
先ほどまでの焦りは消えて、勇ましい覚悟が宿っている。
未熟さ……というよりは成長の兆しだ。
帝国との戦いを経て、さらに強くなっていくのが容易に予感させられる。




