第64話 まだ見えぬ高み⑤
両手を組むミハエルが神妙な顔をしている。
そこには隠し切れない悔しさがあった。
しばらくして彼は呟く。
「五十年前の英雄は強いんだな……俺ではまだ敵わないか」
「そうでもない。真っ向からの決闘なら大半には勝てるだろう。呪槍の再生力や暴走はそれだけの脅威だ」
「……つまり俺個人の力量では厳しいわけだな」
「否定しない」
俺はあえて正直に答える。
そこで誤魔化すのは却って侮辱になるだろう。
ミハエルのためにも事実を端的に伝えるのが良いと思った。
呪槍と適合したミハエルの戦闘能力は著しく高い。
魔力の消費速度を除くと、明確な弱点が無いと言えるほどだ。
もっとも、完璧な強さに達しているわけでもなかった。
ミハエルにはまだ成長の余地が残されている。
精神性も含めてこれから全盛期を迎える人間なのだ。
武器の性能に頼りすぎず、己の力を研鑽してほしいものである。
彼ならば辛辣な意見でも受け入れて糧にできると信じている。
ユエルがミハエルの肩に手を置いた。
彼女は聖女の名に恥じない微笑で優しく語りかける。
「大丈夫ですよ。これから力を上げていけばいいのですから。しっかり鍛えてアッシュ様のお役に立ちましょう」
「そうだな、分かっている。焦らずに強くなるつもりだ」
ミハエルは鋭い眼光のまま頷く。
固い決意だ。
呪槍の後継者として相応しい心構えであった。
ならばこれ以上は言うこともない。
しっかりと邁進していくはずだ。
その様子を見ていたミザリアが思い出したように話題を変える。
「そういえば、騎士国が宣戦布告をしたようだね。どうするんだい?」
「どうもしない。向こうの出方に合わせて英雄をぶつけるだけだ」
俺は予め決めていた答えを述べる。
そう、何も変わらない。
これまで通りに対処すればいい。
己に言い聞かせるように、この場の英雄達に告げた。
騎士国とは、前の大戦後に成立した国の一つだ。
刃影国にいた国王の護衛の所属する勢力でもある。
近接武器の魔導器の扱いを得意としており、各国と比べても破格の実力と権威を誇る。
純粋な白兵戦においては不敗と評されるほどで、秩序に忠誠を誓う国であった。
その時、ミザリアが意味深な目付きで俺を見やる。
「騎士国と言えば、あんたとも縁があるねえ」
「…………」
「無視するのかい。過去はそう簡単に振り切れるもんじゃないよ」
ミザリアがさらに追及しようとした途端、ユエルが俺達の前に割って入ってきた。
彼女は毅然とした口調で言う。
「アッシュ様を苦しめるのはやめなさい」
「ハッ、ちょいと昔の話を仄めかしただけじゃないか。あまりとやかく言うのも無粋だと思うがね」
「悪意があるのですから止めるのが普通でしょう。死霊術師の常識で物を言わないでください」
ミザリアとユエルの間で殺意が高まっていく。
それが爆発する寸前、二人の間に石の壁が生成された。
静観していたシュアが淡々と発言する。
「作戦会議が止まっている。争いは後回しにすべき」
正論を受けたミザリアとユエルは引き下がる。
それに伴って石の壁も崩れて床に収納されていった。
一触即発だったが、殺し合いにまでは発展せずに済んだようだ。




