第61話 まだ見えぬ高み②
その後、俺達は拠点へと帰還した。
ミハエルは国王を殺さなかった。
両脚を切断したまま放置することを選んだのである。
俺もユエルもそのことに異議を唱えなかった。
それがミハエルの選択であり、他人が口を挟むことではないからだ。
損得の観点で考えた場合でも悪くない。
あえて生かすことで国王に恐怖と絶望を植え付けることができるためである。
何にしても刃影国に大きな影響を及ぼすのは想像に難くなかった。
拠点に戻った俺達は情報収集に勤しむ。
派手な行動を抑えて、今後の方針を決めるための会議を重ねた。
今は大事な時期なので迂闊な失敗は控えたい。
ひとまず様子見で反応を窺うのが最適解であった。
月日の経過に伴って、傭兵団の話は徐々に知れ渡っていく。
特に刃影国と騒動を起こしたのが大きい。
異質な存在として様々な噂が広がりつつあった。
拠点の監視を行う者も次第に増えて、注目度の高さを実感する。
そこで俺は各国に正式な文書を送った。
内容は傭兵団についてだ。
傭兵団は死を求める組織であり、逆境こそ至高である。
理想の死を望み、時代に逆らって戦っている。
死に場所を欲する者は立ち向かってくるがいい。
他にも色々と書いたが、要約するとこれだけの話だ。
嘘偽りのない表明にしている。
些か挑発的なのは意図的なものである。
その方が自然と話題が大きくなると期待してのことだった。
とにかく傭兵団を世界に周知させねばならない。
未練を残す英雄に納得のいく死を与えるため、戦いの機会を逃すわけにはいかないのだ。
知名度を上げるためならば、多少の汚名は厭わないと考えている。
死にぞこないの俺達にとって、名誉や評価などさして興味のあることではなかった。
送り付けた文書を巡り、各国は様々な反応を示した。
まず刃影国は真っ先に降伏を宣言し、あろうことか属国になることを希望した。
一国が少数の傭兵団の下につきたいという異常な事態である。
ミハエルとの戦いがよほど堪えたのだろう。
両脚を失った国王は、報復すら考えられないほどの絶望を刻み込まれてしまったようだ。
ちなみに刃影国の属国希望は拒否した。
傭兵団はいかなる勢力とも関係を結ばないと決めている。
強いて言うなら敵対のみである。
友好も従属もいらない。
英雄に必要なのは死ぬための戦いだけなのだ。




