第57話 殻を破るとき⑦
俺は目の前の物体を見下ろす。
苛烈な攻撃を繰り返した戦斧の男は物言わぬ肉塊と成り果てていた。
実にあっけない最期である。
床に広がる鮮血が俺の足下を濡らしていく。
(少し期待外れだったな……いや、俺が期待しすぎただけか)
失望を抱いたものの、それは主観による基準だ。
戦斧の男は相手が悪かった。
本来なら地力と魔導器を併用した凄まじい力を持つ戦士だったのである。
台無しとなってしまったのは、ひとえに俺と対面したせいだった。
魔術師への憎悪が無ければもっと冷静に立ち回っていただろうが、どのみちこの結果は変わらなかったと思う。
周囲を見回すと、ユエルの戦いも決着していた。
彼女のそばにはレイピアの女が倒れている。
目や鼻や耳や口から大量の血を流しており、既に息をしていない。
霧散しつつある体内の魔力は、絶えず乱れ切っていた。
もはや生物として命を保てない状態だ。
ユエルが共鳴能力で狂わせたらしい。
俺はユエルのもとまで行って話しかける。
「大丈夫か」
「まったく問題ありませんわ。手応えが無さすぎて物足りないくらいですもの」
「そっちの敵は相手が悪かったな」
「ふふ、同じ言葉をそのまま返しますわ」
ユエルは優雅に微笑んでみせる。
これといった消耗は感じられず、傷一つとして負っていない。
さすがは前の大戦の英雄だ。
生粋の戦士ではないというのに驚異的な実力を有している。
会話をする俺達をよそに、激しい戦闘音が連続する。
ミハエルと二刀流の男が攻防を繰り広げていた。
謁見の間の内装を破壊しながら生死のやり取りを展開していく。
「あとはミハエルだけか」
「厳しそうですわね」
「相性は最悪だろうからな。それにしてはよくやっている」
ミハエルは堅実な防御術を得意とする。
そこに再生能力が加わり、従来の長所が底上げされていた。
攻撃面は呪槍による治癒困難な傷があるため、掠り傷でも後々に響いてくる。
間合いでも勝っており、持久戦においては優位に立てるはずだ。
対する二刀流の男は、相手を打ち崩すことを重視した流派を用いている。
かなり攻撃的な型の上に、どうやら刃に毒を塗っているようだ。
そのせいでミハエルの再生速度が露骨に落ちていた。
呪槍ほど高い効果ではないものの、毒は着実に力を発揮している。
ミハエルと死闘を演じながらも、二刀流の男は俺とユエルの動向を窺っていた。




