第56話 殻を破るとき⑥
魔術が発動し、二枚の結界が出現した。
結界は戦斧の男を左右から挟み込んで圧迫する。
そのままいけば人体を破裂させるだろう。
「ぐ、くっ!?」
戦斧の男は慌てて抵抗し始める。
強引に腕を振るって結界を破壊して吼えた。
俺はすかさず地形操作を行使する。
尖らせた床が男の足裏を貫通し、痛みで戦斧を振るう動きが鈍った。
俺は畳みかけるように結界を追加して、今度は上から男を押し潰しにかかる。
男は戦斧で結界を砕き、怒りながら反撃に移った。
(この角度なら構わないか)
俺はわざと回避せず、刃を顔面で受けた。
斬撃は首まで一気に切り裂くと、鎖骨を粉砕して肋骨を叩き折りながら体外へと斜めに抜けていく。
猛烈な痛みと共に片目の視界が暗くなった。
斬痕に沿って血飛沫が噴き出して臓器がこぼれ出す。
言うまでもなく致命傷であった。
男は勝ち誇って戦斧を突き付けてくる。
「ふはは、やはり脆いなぁ! 少しは動けるようだが所詮はこの程度だな!」
「…………」
俺は無表情で男を見つめる。
興醒めだ。
ここで首を刎ねてくるのなら少しは評価もできたのだが、男は完全に慢心している。
己の勝利を疑わず、自尊心を愛でることしかできなかった。
当初の期待を返してほしいものだ。
嘆息した俺は瞬時に再生する。
体内の魔力を用いれば、これくらいは造作もない。
能力の全貌を知らなかった男はぎょっとする。
「なにっ!?」
男は即座に攻撃を仕掛けようとするが、怪訝そうな顔で中断する。
自身の装備の異変に気が付いたようだ。
俺は戦斧を指差して指摘する。
「斬られた時、装備に内蔵された魔力を吸収してやったのさ。もう魔導器は使えない。さあ、どうする」
「黙れェ! 魔導器に頼らずとも殺せるわッ!」
怒り狂う男が斬撃を放つ。
俺は右手をかざした。
戦斧は指の間から両断し、胴体にめり込んでいく。
再び肉体を破壊される苦痛を味わうも、これくらいで精神は乱れない。
死なないと分かっているのだから痛がる必要はないのだ。
俺は瞬きせずに男を観察しつつ前に進む。
血だらけの手で男の首を掴むと、体内に残る魔力を根こそぎ奪い取った。
「うぅ、あ……」
呻いた男がふらつく。
それでも反撃を試みようとするが、もはや子供でも避けられそうな挙動だった。
すべての生物にとって魔力の枯渇は死活問題である。
まともに動けるはずがないのだ。
「もう終わりだ」
俺は吸収した魔力を無刃剣に注ぐ。
幅広の刃が男の胴体に突き刺さり、傷口が静かにずれていく。
男の上半身が床に落ちた。
遅れて下半身も崩れる。
倒れた顔が恨めしそうに俺を睨んでいたが、やがてその目から光が失われた。




