第55話 殻を破るとき⑤
俺は無刃剣を使用し、噴き出した魔力の刃で戦斧を受け止めた。
あまりの威力に膝を追って体勢を崩す。
しかし、そのまま一刀両断されることは阻止できた。
戦斧の男は凶悪な笑みを湛えて、強引に押し込もうとする。
俺は笑い返して床を転がった。
素早く起き上がって無刃剣を構え直す。
手の痺れ……骨の軋みが生死のやり取りを訴えてくる。
「はは、面白くなってきたな」
視界の端では、レイピアの女がユエルに攻撃を仕掛けていた。
強烈な刺突に対し、ユエルは防御魔術で対抗している。
(連携を分断して各個撃破を狙ったのか)
国王はこの展開が狙いだったのだろう。
最初からミハエルを許す気などなかったわけだ。
目の前で処刑することを望んでいたのである。
現在、国王は余裕ぶって観戦を決め込んでいた。
直接は手を下さずに済ますつもりらしい。
状況を考察していると戦斧の男が叫ぶ。
「よそ見とは良い度胸だなッ!」
容赦ない連撃が降り注ぐ。
俺は飛び退きながら回避し、地形操作で変形させた床を盾にして防いだ。
それもすぐに破壊されるので退避と防御を繰り返す。
戦斧の男は真正面から打ち崩すことに執着している。
何らかの意図があるとは考えにくい。
単なるこだわりや誇りの類だろう。
(もう少し探ってみるか)
俺は無刃剣を前に向けて、刃を伸ばして不意打ちを行う。
戦斧の男は身体を器用に屈めて回避した。
そこから豪快に体当たりを繰り出し、俺を突き飛ばしながら追撃の刃を振り下ろしてくる。
紙一重で無刃剣を割り込ませることで弾きつつ、俺は再び距離を取って様子を窺う。
戦斧の男はやはり突進してきながら罵倒を飛ばしてきた。
「オイは貴様のような魔術師が大嫌いなんだ! 卑怯者が、ぶった斬ってくれる!」
彼の抱く執着の正体は、ただの逆恨みであった。
そこからさらに攻撃が加速し、破壊力も増幅した。
全身各所の魔導器で戦闘能力を底上げされているのだ。
単純だがそれ故に対策しづらい強さである。
嫌いな魔術師を一方的に屠るために編み出した戦法なのがよく分かった。
国王の護衛に選ばれるだけの実績を出しているのだと思う。
その努力は評価しよう。
ただし、英雄としては三流以下である。
私怨に囚われた攻撃は単調で、同格以上を殺すための手段とは程遠い。
驕りが積み重なった結果、せっかくの才能が錆び切っている。
俺は冷めた心で魔術を構築した。
張り切る戦斧の男を前に指を鳴らす。
「さっさと本気を出してくれ。さもなくば死んでもらう」




