第47話 傭兵宣言③
その後、主要な道を避けて移動を続ける。
目立ちすぎると余計な問題が起こりかねないと思ったからだ。
多少の迂回は許容して俺達は進む。
やがて刃影国の領土に踏み込んで数日ほど歩くと、前方に一万人ほどの大軍が待ち構えていた。
既に臨戦態勢でいつでも攻撃を仕掛けられる陣形を取っている。
俺達は離れた地点で足を止めて観察する。
ユエルは世間話のような口調で感想を述べた。
「明らかに警戒されていますわね」
「監視役が連絡したのだろう。想定の範囲だ」
俺達の行動は各国の諜報員に見張られている。
それだけ注目を集めているのである。
当然ながら刃影国にも監視されており、どこかで待ち伏せされるであろうとは考えていた。
こうなるのが早いか遅いかの話だ。
俺は先頭を行くミハエルに問いかける。
「どうする。俺が解決してもいいが」
「任せてくれ。どうにか説得してみる」
そう言ってミハエルは前に進み出ると、大声で刃影軍に呼びかけ始めた。
彼は今回の目的を正直に明かして通してもらうつもりらしい。
懸命な様子で話しかけており、ミハエルが戦闘を回避しようとしているのが分かる。
ユエルは俺に抱き付きながら傍観する。
「大丈夫でしょうか」
「無理なら援護するまでだ。別に問題はない」
「ふふ、アッシュ様は過保護ですね」
「そうか? 割と放任主義だと思うが……」
首を傾げていると、刃影国から号令が上がった。
直後に漆黒の矢が凄まじい密度で放たれる。
山なりに降り注ぐそれらは俺達を狙っていた。
ユエルは残念そうに息を吐く。
「あら、説得に失敗したようですね」
「求心力が足りなかったらしい。お飾りの英雄として軽んじられているのだろう」
「助けますか」
「どうやらその必要はないみたいだ」
俺はミハエルを見やる。
大量の影の矢を前に、彼は一切の動揺を感じさせない。
堂々を構えた槍を振るって次々と叩き落としていく。
律儀にも俺達に命中しそうな分も弾いていた。
凄まじい動体視力と反応速度だ。
呪槍の性能だけではとても成し得ない領域である。
ミハエルの防御術に俺は感心する。
「上手いな。完璧に捌いている」
「次代の"呪槍"ですからね。この程度でやられては困りますわ」
ユエルは涼しい笑みを浮かべている。
万が一にも自分に矢が刺さるとは考えていないだろう。
仮にミハエルが防ぎ損なったとしても、ユエルならば自力で対処できる。
俺達にとっては危機ですらないのだった。




