第46話 傭兵宣言②
翌日、刃影国の首都へ向かうことになった。
離脱を報告するミハエルに、俺とユエルが同行する。
ミザリアは修道院の仕事が忙しいそうなので、一時的に幻影を解除している。
シュアは拠点防衛のために留守番を任せた。
万が一の時は樹海のブラハに応援を要請できるため、陥落する可能性は皆無だろう。
俺達は平原を真っ直ぐに伸びる街道を進む。
ユエルは俺の腕に密着し、恍惚とした表情で頬ずりをしていた。
「アッシュ様と旅ができるなんて嬉しいですわ」
「あまり楽しいものじゃないぞ」
「分かっています。それでもどう感じるかは人それぞれでしょう?」
軽く振り払おうとするも、ユエルが離れる気配はない。
そもそも彼女には留守を任せるはずだったのだが、本人の強い意向で同行することになった。
十中八九、俺と一緒に過ごすためだろう。
隣を歩くミハエルは少し気まずそうにしていた。
移動中ずっとこんな調子では仕方あるまい。
なんとなく罪悪感を覚えた俺は、それを誤魔化すように話題を振る。
「呪槍は馴染んだか」
「特に違和感はない。むしろ前よりも元気なくらいだ」
「レドウィンの力を継いだ影響だろうな。その特性によって呪槍の使い手は強くなっていく」
いつかミハエルが死ねば、その力もまた次の代に繋がる。
呪槍の発祥は定かではないが、そうやって脈々と受け継がれてきたのだ。
禍々しく罪深い能力も、使い手次第で印象が反転する。
これからどのような因果を刻むかは、すべてミハエルに懸かっている。
俺はミハエルに素朴な疑問を投げる。
「祖国を裏切ることに後悔はないか」
「まったくない。俺は元平民だ。武功で成り上がったが、その実態は貴族の子飼いに過ぎない。良い暮らしの代わりに自由と誇りを失ったんだ」
ミハエルの目に後悔の色が宿る。
裏切りではなく、貴族の兵として過ごした日々を悔いているのだろう。
「今は国を捨てる決心ができて心が軽くなった。天涯孤独で守る人間もいない。ちょうどいい気分さ」
「いけませんね。守る存在がいることで、英雄は真の力を発揮できるのですよ」
話を聞いていたらしく、唐突にユエルが反論した。
ミハエルは少し驚いた様子で問う。
「そうなのか?」
「ええ、誰かのために戦うとは素晴らしいことです。愛の真価を問われる瞬間ですから。ですよね、アッシュ様?」
ユエルが身体を押し付けてくる。
正論のように聞こえるが、彼女の主張はただの個人的な欲求である。
別にミハエルに説く意図はなさそうだった。
俺が反応に困っていると、ミハエルがこちらを見て言う。
「恥ずかしくないのか」
「もう考えないようにしている」
ため息を洩らした俺は、ユエルを引っ張るようにして歩くのだった。




