第44話 槍の英雄⑦
レドウィンの砂化は加速する。
既に半ば以上が浸蝕されて、僅かな身じろぎでも崩れてしまうほどだった。
呪いの反動で苦痛もあるはずだが、レドウィンは穏やかな表情を浮かべている。
「我は、この一戦で満足した……ただ消滅するのではない。貴様が引き継ぐ、のだ。またとない、光栄であるぞ……」
囁くような声はミハエルを褒め称えていた。
それは心の底からの言葉であった。
レドウィンはこちらを見て、精一杯に声を張り上げる。
「錬金術師よ! 礼を言うぞッ! 貴様のおかげで最期に良い戦いを味わえた! "砲王"ブラハにも先に待っていると伝えてくれ!」
「……分かった」
俺は頷いて応える。
それ以上の返答は不要だろう。
ここで俺の出る幕はない。
二人の邪魔をしたくなかった。
ミハエルは静かに泣いていた。
様々な感情に顔を歪めて唇を噛んでいる。
それを見たレドウィンは苦笑した。
「ふはは、現代の英雄は涙脆いな。まるで子供のようだ」
「それはお前が……」
ミハエルは反論しようとするも、レドウィンが肩に手を置いて止める。
「戦争を大いに楽しめ。そして潔く死ね。我から言えるのはこれくらいだ」
砂化は容赦なく進行し、ついに顔の一部に達しようとしていた。
レドウィンは天に向かって叫ぶ。
「ではさらばだ! 今後は次代の"呪槍"に期待するがいいッ!」
魂を振り絞って吼えたレドウィンの身体は完全に砂化した。
そして足元から崩れて消滅していく。
レドウィンは死んだ。
生涯において一度きりの激戦を堪能し、後継者にすべてを託して逝った。
俺は門から飛び降りてからミハエルに話しかける。
「まだ戦うか。その気なら相手をするが」
「いや、いい。もう俺だけの命ではない。適切な死に場所を探さなければ」
そう述べるミハエルの胸から赤黒い粘液が溢れる。
抽出された呪槍の一部だ。
粘液は砕け散ったミハエルの槍に浸透すると、破片同士を寄せ集めて復元する。
元の形状を保ちつつも、色だけは赤黒く染まっていた。
ミハエルはその槍を拾い、握った心地を確かめて小さく頷く。
俺はその背中に告げる。
「お前は呪槍の新たな担い手となった。その事実を受け止めて人生を全うしろ」
「無論だ。英雄レドウィンの名を超えなくてはならない」
振り返ったミハエルは決意に満ちた顔をしていた。
英雄の重みを認識し、己が継いだものを理解したのだ。
レドウィンの死は、この時代に真の英雄を生み出そうとしていた。
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