第41話 槍の英雄④
"呪槍"の英雄レドウィンが戦場で残した功績は少ない。
実力不足だったのではなく、国の上層部が出撃を許さなかったのだ。
レドウィンは王族である。
ただ一人の跡継ぎで、戦士になること自体に猛反対を受けていた。
それを優れた才覚で黙らせて、周囲からの評価を得ることで、渋々ながら活動を許可されたのだ。
しかし、レドウィンにはそこまでが限界だった。
危険な戦場に参加できず、圧倒的に有利な状況のみ戦うことができた。
実力はあるので英雄視されていたが、本人は不服だったろう。
高貴な身分で民からの信頼も厚く、兵士からは憧れと尊敬を集めていた。
まさに理想の英雄像だが、レドウィンが求めていたのはそういった要素ではない。
いつしか彼は本気で戦って死ぬ瞬間を探し求め、そして機会を逸したまま終戦に至った。
未練と苦痛を抱いた彼はすべてを捨てて、五十年後の現在に希望を託したのである。
呪槍を持つレドウィンは愚痴る。
「一度でもいい。強敵と命を削り合ってみたかった。殺される恐怖を味わいたかった。鍛え上げた技術を本気でぶつけてみたかった。当然の欲求とは思わないか」
「……分かる。俺だってそうだ。お飾りで終わりたくない。だから逃げずにここにいる」
「ふふ、良い覚悟だ。心が躍ってしまうではないか」
レドウィンは不敵な笑みを浮かべた。
張り詰めた闘志が極限にまで高まっていく。
呪槍からも禍々しい瘴気が迸っていた。
ミハエルは息を呑み、後ずさりそうになる。
それをなんとか耐えると、気を引き締めて堂々と対峙した。
一連の様子を見ていたレドウィンは己に言い聞かせるように呟く。
「もう言葉は要らんな。ただ全力で死合う。それだけでいい」
「そうだな。よろしく頼む」
「ああ、こちらこそ。現代の英雄よ、我を殺してみろ」
そう宣言したレドウィンは一直線に突進する。
霞むような速度で疾走し、渾身の突きを見舞った。
ミハエルは紙一重で見切り、やや強引に受け流す。
大した反応速度だ。
普通なら今の刺突で終わっていただろう。
そこからミハエルは反撃の蹴りを放つも、レドウィンが構えた前腕に防がれた。
レドウィンは高笑いして呪槍で薙ぎ払う。
両者の槍が連続で衝突して絶えず金属音を鳴らす。
実力はほぼ互角だった。
牽制や様子見はなく、最初から本気を出している。
刹那の攻防の中、二人の槍使いは壮絶な顔で殺し合う。




