第40話 槍の英雄③
蘇った英雄は、禍々しい雰囲気の赤黒い槍を持っていた。
魔力汚染をものともしない何かを漂わせており、触れることを本能的に躊躇わせる。
それは二つ名の由来でもある呪槍であった。
使い手の英雄レドウィンは、周囲を見回してから俺に話しかける。
「錬金術師よ。我に相応しい戦が見つかったのか」
「そうだ」
「あれから何年経った?」
「およそ五十年になる」
俺の答えを聞いたレドウィンは片眉を上げる。
彼の目に興味関心の色が映った。
「意外と早かったな。最低でも百年は待つかと思ったが」
「人間を高く見積もりすぎだ」
「ふはははは、貴様はいつも辛辣であるな」
レドウィンは愉快そうに笑う。
それから視線を落として地上を見下ろした。
彼の目はミハエルを捉えていた。
「あの男だな」
「不満か」
「貴様が選んだ相手だ、信用している。それに奴は槍使いだ。実に素晴らしいではないか。貴様の感性に惜しみない称賛を送ろう。光栄に思うがよい」
随分と偉そうな態度だが、レドウィンはいつもこのような調子である。
実際に身分は高く、言動に嫌味を感じさせない風格を備えていた。
俺は大事なことをレドウィンに伝える。
「ブラハからお前を優先して蘇らせるように頼まれた」
「……フッ、余計なことを。気遣いなど要らぬというのにな」
「どうする。話したいならブラハを呼ぶが」
「再会よりも戦いであろう。そのために蘇ったのだから」
そう言い残して、レドウィンは外壁から飛び降りた。
回転しながら落下し、ほとんど音を立てずに着地する。
惚れ惚れするほど見事な動きであった。
高度な身体強化がなければ、ただの自殺になっているところだ。
レドウィンは槍で肩を叩きながらミハエルに話しかける。
「待たせたな。我が名はレドウィン。昔は"呪槍"の二つ名で呼ばれていた」
「今度は"呪槍"とは……お前達は過去の亡霊なのか?」
「うむ。概ね間違っていないぞ。我らは成仏できない悔いを抱いている」
あっさりと言うレドウィンの表情は深い未練を湛えていた。
レドウィンはミハエルに尋ねる。
「我の蔑称を知っているか」
「……"不戦"」
「そうだ。王子という身分のせいで前線に出られなくてな。おかげで"不戦"の腰抜けと呼ばれる羽目になった」
政治的な事情で死に場所を選べなかった不遇な英雄。
それがレドウィンという男だった。




