第37話 不埒な来訪者⑤
再び上空に影の槍が形成されていく。
懲りずに攻撃を続けるつもりのようだ。
連続で仕掛ければ結界を打ち破れると考えているのだろう。
別に魔力切れまで待ってもいいが、彼らの戦意を折るのに良い方法がある。
俺は魔術の念話でシュアに呼びかけた。
「聞こえるか。あいつらを蹴散らすから、術が干渉しないように気を付けてくれ」
「指示を、理解」
返答と同時に目の前の結界が薄れて消える。
シュアが意図的に解除したのだ。
これで俺の反撃がやりやすくなった。
結界が張られたままでも問題ないが、もう既に防御など不要なのだ。
魔力の無駄なので取っ払ってしまってもいいだろう。
俺は魔力の制御を進めつつ宣告する。
「我々の拠点を刃影国に渡すつもりはない。死にたくなければ去れ」
反応はない。
彼らは結界がなくなったことを喜び、余計に気合が入っていた。
光明が見えたという勘違いが加速し、奇妙な一体感となって場に蔓延している。
俺の言葉など届いてすらいないだろう。
構築が完了した影の槍がこちらを向く。
それが動き出す瞬間、魔力を操って制御を乗っ取った。
固形となった影を液状化させて地上へと落とす。
突然の事態に刃影軍は驚き、影の濁流に呑まれて押し流されていく。
(魔導器の構築する術は制御を奪いやすいな。規則性を重視した造りだからか)
現代技術の脆弱性を発見した俺は、眼下の光景を観察する。
刃影軍の陣形は瓦解していた。
自分達の影が纏わりついて満足に動くことすらできない。
液状化の持続力は大したことがないのですぐに解除されるが、精神面はそうもいかない。
攻城用の大魔術がたった一人の男に破られたのだ。
攻撃が通用しない事実は無視できまい。
俺は畳みかけるように告げる。
「戦力差は歴然だ。こちらには死霊術師もいる。お前達の魂を縛り付けて、醜い屍として使役することも可能だ」
嘘ではない。
ミザリアがその気になれば、躊躇なく実行してみせるはずだ。
刃影軍がこの十倍の規模だとしても、彼女の死霊術には敵わない。
いや、数が増えるだけミザリアのアンデッドが増えるだけなのでどうしようもなかった。
動揺する軍に対し、俺は感情を乗せずに命じる。
「これが最後の警告になる。今すぐに、俺の視界から消えろ。さもなくばお前達を殺す」
刃影軍に緊張と絶望を孕む静寂が訪れた。




