第36話 不埒な来訪者④
俺は外壁に触れて地形操作を発動する。
即席の階段を作って上がり、刃影国の軍隊を見下ろせる位置まで移動した。
拡声の魔術を用いて彼らに話しかける。
「俺がこの地の責任者だ。要件を言え」
真っ先に反応したのは、二本角の兜を被る男だった。
男は怒気を露わに要求を述べる。
「ここは刃影国の領土だ! 貴様のものではない。早々に立ち去るか、我々の軍門に降れ!」
「断る」
「ならば死ねッ!」
男が叫ぶと同時に、軍隊から黒い巨大な塊が浮かび上がった。
不自然な立体感を持つそれは、兵士達の影の集合体だ。
その証拠に彼らの足元にあるはずの影がなくなっている。
魔導器の効果で操作しているのだろう。
影は上空で歪み、槍のように鋭利な形状へと変わっていく。
あれで外壁を穿つつもりらしい。
魔導器によって術は安定しており、最適な破壊力を保って放たれようとしていた。
角度からすると俺ごと抹殺する気なのが分かる。
「まったく、強引だな……」
俺は嘆息しつつ見守る。
実に懐かしい感覚だ。
こういった横暴でもまかり通るのが戦争である。
若い頃は何度も苦渋を強いられて、そのたびに強くなることを誓った。
不条理に立ち向かうには、それを押し潰すだけの力が必要なのだ。
間もなく影の槍の構築が完了し、大質量の刺突として外壁に叩き込まれた。
視界全体が漆黒に染まり、耳鳴りのような音が鼓膜を刺激する。
膨大な殺意が俺を呑み込まんと雪崩れ込む。
刹那、影の槍が粉々に砕け散った。
魔力の霧散に伴って形を保てなくなり、兵士達の足元へと引き戻されてゆく。
外壁には傷一つなく、俺も無事だった。
目を凝らすと、多重の結界が拠点の内外を隔てている。
シュアが防衛機能で展開したのだ。
それが分かっていたから俺も棒立ちだったのである。
ブラハから提供された設備は、既存の技術から逸脱した性能を誇る。
安定性と均一化を重視した魔導器で打ち破れるほど甘くない。
動揺する刃影軍を見下ろしながら、俺は冷淡に問いかける。
「こんな形で仕掛けてきたということは、反撃される覚悟もあるんだな?」
「再発動だ! 出力を上げろッ! あの男を早く殺せェッ!」
二本角の兜の男は、拳を振り上げて怒鳴っている。
こちらの言葉に耳を貸す様子はなかった。
兵士はそれに従って影の槍を放つも、やはり結界に遮られて意味を為さない。
内蔵された魔力をいたずらに消費するだけだ。
あと数発で発動すらできなくなるだろう。
守護ゴーレムのシュアは、その役目を十全にこなしていた。




