第35話 不埒な来訪者③
移動中、慌てた様子でユエルが駆け寄ってきた。
彼女は緊張した面持ちで報告する。
「アッシュ様! 門前に大勢の兵士が……!」
「分かっている。今から向かうぞ」
「承知しました!」
そこから三人で門のある方角へと向かう。
隣を走るユエルは俺に問う。
「相手とは戦うおつもりなのですか?」
「どうだろうな。向こうの目的次第かもしれない」
「消極的だね。薙ぎ払っちまえばいいのに」
「お前は好戦的すぎだ」
「別に。その方が楽しそうだからねえ」
ミザリアが邪悪な微笑みを見せる。
冗談めかした部分もあるが、いくらかは本気でそう考えていそうだ。
隠居して落ち着いたふりをしていたが、ミザリアの本質は禍々しい死霊術師である。
敵兵を惨殺して嘲笑うような女であり、こういった言動はむしろ似合っていた。
かつて殺し合った時の記憶を振り返っていると、ミザリアが睨みつけてくる。
「……何か失礼なことを考えたね」
「気のせいだ」
間もなく俺達は拠点の外周部に辿り着いた。
閉ざされた門の向こうから絶えず喧騒が聞こえる。
俺は片目の視覚を門の表面へと移し、外の様子を確認してみた。
整列した軍が魔導器の杖を構えて待機している。
かなり殺気立っており、士気も統率も十分あるようだ。
一級ではないにしろ、烏合の衆とは呼べないだけの練度が窺える。
「それなりの規模だな。魔導器も取り揃えているようだ」
「あの軍旗は刃影国のものですね」
ユエルが冷静に述べる。
片目を閉じているのは、俺の視覚と共鳴中だからだろう。
それによって外の様子を確かめたらしい。
やはり地味ながら便利な能力である。
ユエルの見つけた軍旗は、確かに刃影国のものだった。
五十年前には存在しなかった国で、いくつかの集落が合併する形で成立した過去を持つ。
主軸となったのが影魔術の使い手達で、その技術は今でも受け継がれているそうだ。
魔導器も影に関する術だと考えるのが妥当だろう。
「俺が対応する。ユエルは念のために迎撃準備を頼む。あいつらを拠点内に招くつもりはない」
「承知しました、お任せください!」
背筋を伸ばしたユエルは嬉しそうに応じた。
腕を組むミザリアが俺に尋ねる。
「あたしはどうする」
「アンデッドを用意してほしい。近くの倉庫に白骨死体を保管してある。それを使ってくれ」
陥落の歴史があるこの場所には、数多くの死体がある。
整備した際に集めておいたのは、臨時戦力として使うことを想定してのことだ。
実際に戦わなかったとしても威圧や牽制になる。
俺達の傭兵団は孤軍奮闘が原則だが、それが搦め手を用意しない理由にはならないのである。




