第32話 砲王の提案⑥
ブラハの要求は意外なものだった。
彼が他の英雄の復活を望むとは思わなかった。
そもそも関心がないだろうと考えていた。
ブラハの交友関係は詳しく知らないが、何らかの繋がりがあったらしい。
俺は優先して蘇らせたいという英雄が誰なのか訊く。
真剣な表情のブラハは二つ名と共にそれを明かす。
両者の接点が読めず、俺は疑問をぶつけた。
「確かに俺が封印しているが、なぜあの男なんだ」
「大戦時に縁があってな。窮屈そうな生き方が印象に残っていた。本来ならもっと自由に振る舞うべき人間だった」
ブラハは遠い目をして語る。
五十年前の情景を思い返しているようだ。
そこには少なからず後悔が窺えた。
「どうにかあいつの未練を取っ払ってやりたい。お節介なのは自覚している。どうか頼む」
「言われなくてもそのつもりだ。封印した英雄には理想の死に場所を提供する。本人からの要望も聞いている」
「感謝する」
ブラハは深々と頭を下げる。
彼の要望がなくとも、俺は英雄達のために力を尽くす。
この誓いが揺らぐことは決していない。
俺はブラハに告げる。
「あの男の出番はそう遠くないだろう。その時はすぐに封印を解く。協調性のある男なので問題も起こらないはずだ」
「そこは信用できる。万が一の時はわしが仲裁しよう」
「お前が出張ると余計に混乱する。俺達に任せてほしい」
「ううむ……分かった」
ブラハは唸りつつも承諾する。
いつもは豪快な言動の彼も、今回はなんとも大人しい。
それだけ件の男のことが大切なのだろう。
滅多に見えぬブラハの人間性の一端を知ったような気がした。
俺は興味本位から話を掘り下げる。
「戦争狂の"砲王"が優先してほしいと乞うとは、よほど気が合ったようだな」
「肩を並べて戦うことはなかったが、不思議と話しやすかったな! 毎日のように飲み交わしたのが懐かしい! あいつがいると上等な酒が飲めるから楽しかったぞ!」
「結局、酒目当てじゃないか」
「とんでもない! わしらはお互いを尊重できる良い仲だった! 身分も年も戦い方も違ったが、そこには確かな絆があったのだ!」
ブラハは立ち上がって力説する。
その双眸には並々ならぬ熱意が宿っていた。
俺はブラハに尋ねる。
「なぜ優先しての復活を望む? 別に最適な戦場があるまで待てばいいだろう」
「…………この戦争がいつまで続くか分からないからな。早めに死ねるに越したことはあるまい」
ブラハはこちらを見ずに呟く。
その背中からは後ろめたさが感じられた。
疼くような不安……普段のブラハからは縁遠い感情がある。
「わしらは取り残される絶望を知っている。それを親しき者に二度と味わわせたくない。身勝手で傲慢な考えだがな。他の英雄にも悪いと思っている」
「気にするな。当然の心配事だ」
現代の戦争がいつ終結するのか。
この時代に希望を見い出した俺達にとって、それは当事者以上に重大な問題である。
再び平和な時代を耐えて生き抜くのはあまりにも辛い。
友人のために口出しをするブラハの心情は真っ当だった。
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